太陽最終話 夢から覚めて

開発された薬の問題について、ネロと私は悩み続け……

一度、医師を連れて、チルコへ戻ることになった。

裏切った医師が憎いことに変わりはないけれど、彼がいなければ、子ども達を元気にすることも叶わない……

私達は協力をして、子ども達の回復に力を注ぐことになった。

医者「さあ、始めようか」

ネロ「くっ……」

ニヤリと笑う医師に、ネロは言いたいことを我慢しているのか、唇を噛んだ。

○○「大人の血が必要であることは、わかりました。 なので……私の血を使ってもらえませんか?」

ネロ「……いいのか?」

○○「……これくらいしか役に立てなくてごめんなさい」

ネロ「何言ってるんだ。ここにいる大人はお前だけだ……それに……」

○○「ネロ?」

うつむきながらその先を言い淀むネロの顔を見ようとすると、ぱっと顔を逸らされてしまった。

ネロはそのまま、医師に向き直り……

ネロ「いいか? 血を取るだけだ。他に何かしたら……」

医者「……準備をする」

医師は一つため息を吐いてから準備を進め、私の採血が始まった。

……

けれど、到底私一人の血液で、この国中の子ども達が救えるはずもない。

しばらくすると……

(なんだか頭がクラクラして……)

ネロ「○○……!」

ふらりとよろけかけたところを、ネロが支えてくれた。

少しぼやけた感覚の中で、しっかりとした腕の強さを感じる。

こんな時なのに、とくん、と鼓動が速まった。

ネロ「誰も、ここまでしろとは言ってない」

まるで今にも泣き出しそうな顔で……心配そうに私を見ていた。

○○「ここに大人は、私しかいない」

ネロ「……」

○○「大丈夫、続けよう? 皆を元気にしないと」

貧血のせいか、指先まで冷たく感じて寒い。

ネロ「……震えてる」

ネロはつぶやきながら、そっと……けれど強く、私を抱きしめてくれた。

(温かい……)

私を包むネロの体は、私よりも大きくて……

(ネロだって、もう充分に大人だね……)

ぼんやりする頭で、そんなことを思ったのだった…-。

……

その後…-。

○○「ん……」

目覚めると、ネロに肩を抱かれていた。

ネロ「○○……! 気がついたか、よかった……」

○○「ネロ……? 子ども達は……?」

ネロ「……安心してくれ」

(ネロ……?)

そう言って目を細めるネロは、なんだかとても大人びていて……

ネロ「兄さんや……ほかの兄弟達と相談して決めた。もうすぐここに大人達がたくさんやってくるはずだ」

○○「え……」

ネロが私の肩を抱く手に力を込める。

ネロ「近隣の国に協力を仰ぐことにしたんだ。 兄さんが、今使者と話をしている」

○○「ネロ……」

(あんなに大人を憎んでいたのに……)

そして…-。

ネロ「俺の血も使う」

○○「……!」

医師も私も、ネロの言葉に驚いて、一瞬時が止まった。

(ネロ……)

その言葉の意味を、反芻する。

(大人として……?)

ネロ「大人にならなければ……守りたいものも、守れない」

ネロはその日、子どもで在ろうとする自分を断ち切った…-。

それからしばらく…-。

近隣国の惜しみない協力もあり、チルコの子ども達の体調も落ち着きつつあった。

ある夜…-。

○○「ネロ……」

バルコニーで一人たたずむネロに声をかける。

ネロ「体はもう平気か?」

○○「うん、私は大丈夫。ネロの方こそ…-。」

ネロ「俺はなんともないよ」

ネロは月明かりに反射する、あの小瓶を眺めていた。

(『子どもでいられる薬』……)

ネロ「こいつは、もう必要ないかな」

○○「ネロ……?」

悲しい横顔には、以前の憎しみによる淀みはない。

瞳の奥に宿っていた忌々しい激情は、今はただ静かな思いへと変わっていた。

ネロ「チルコの子ども達は、大人に裏切られ……。 そして、大人に助けられた」

冴え冴えとした月の光が、ネロの綺麗な輪郭を縁取る。

ネロ「……決めたんだ。 俺は大人になる。 汚い大人もいる。最低な大人もいる。けど……そうじゃない大人もいる。 俺は絶対に、汚い大人にはならない」

そういうとネロは…-。

○○「あ……っ」

足元に叩きつけられた小瓶は、音を立てて割れた。

不思議な色の液体が、足元で悲しげに光を放っている。

○○「うん、そうだね……ネロならきっと大丈夫」

ネロ「ありがとう、○○」

ネロは、これまでになく優しい声色で私の名前を呼ぶと……

○○「っ……」

不意に、ネロは背後に回ったかと思うと、そのまま体を抱きしめた。

どくんと、大きく鼓動が跳ねる。

ネロ「知りたいことがあったんだ。 大人になれば……あんたへのこの思いが何か、わかるようになるのかな」

○○「っ……ネロ……」

身じろぐけれど、ネロの両腕はしっかりと私を閉じ込めて離さない。

ネロ「こうしてあんたを抱きしめたいって思うのは……俺が大人だから? ねえ……教えてよ? あんた大人だからわかるだろ?」

しっかりと抱きとめられ、どこか楽しそうに耳元で囁かれて……

○○「ネ、ネロ……!」

まるで心と心が触れ合っているかのように熱かった。

ネロ「ありがとう……俺の国を一緒に救ってくれて…-」

少しだけ甘えるような声色で、ネロが私に囁きかける。

けれど、しっかりした抱擁の力強さは……まぎれもない、立派な男性のものだった…-。

おわり。

<<太陽9話||太陽SS>>