太陽最終話 恋の病の行方は

『恋にぴったりな花』を探し、私は温室の中を歩き続ける…ー。

(どの花もとても素敵だけど……あ、これ)

橙色の花びらが美しい八重咲きの薔薇に、そっと手を伸ばす。

その香りをかぐと、那由多さんに微笑まれた時のように、胸に甘やかな感情が広がった。

○○「これにします」

選んだ薔薇を、那由多さんに見せると……

那由多「その花を選ぶとは、やっぱりお前は重症みたいだな」

○○「重症?」

那由多「恋の病の」

○○「え……」

花を選んだ理由を見透かされたような気がして、思わず声を漏らしてしまう。

那由多「でも、正しい選択かも。ある意味、恋の病に有効な花だから」

○○「え……?」

那由多「高揚しすぎた心を和らげ、静かすぎる心は波立たせる……感情のバランスを取ってくれる匂いなんだ。 だから、昔から新婚初夜の布団の上に敷かれていたり」

○○「……っ!」

偶然とはいえ、そんな花を選んでしまったことに恥ずかしさで体が熱くなる。

那由多「貸して」

焦る私に構うことなく、那由多さんは薔薇の棘を丁寧に取ってくれた。

彼の手元で揺れる薔薇は、めまいがするほど甘い香りを放っている。

那由多「……」

不意に、彼の尻尾がぴんと伸びたと思ったら……

那由多「早速、効果があったみたいだな」

妖しげな視線に捉えられ、私は身を固くした。

○○「那由多さん……?」

那由多「バラの花弁をたくさん浮かべた温泉に、お前と入るのも悪くない。 よし、試しに一緒に入るか!」

○○「ま、待ってください!」

突然の事態に、私はどうにかなりそうだった。

○○「一緒にって、そんな。また、冗談ですよね……?」

すると那由多さんは、ふっと笑みを浮かべ……

那由多「嫌?」

彼の笑顔が、私の心を捉えて離さない。

(……嫌、じゃない)

鼓動は収まる気配を見せず、頬は熱くなるばかり……

そんな私を見下ろす那由多さんの瞳は、すべてを見透かしているように思えた。

那由多「行こう。俺専用の露天風呂に案内するよ」

○○「あっ、待ってください!」

私は温室を出ていく彼を、追うしかなかった…-。

……

那由多さんの部屋に通された私は、緊張のあまり立ち尽くしていた。

那由多「丁度いい湯加減だよ」

隣接する露天風呂から戻ってくると、那由多さんは私の前に立つ。

(どうしよう……)

那由多「ここまで来て、まだ恥ずかしい?」

○○「……はい」

那由多「かわいいなあ」

彼は私と違って、全く緊張などしていない様子だった。

○○「……あの、誰にでも、こういうことするんですか?」

(那由多さんの周りは女性ばかりだから、もしかしたら当たり前のことかも……?)

那由多「それを気にするってことは、俺が好きだから?」

○○「……!」

薔薇の甘い香りが、私の胸の奥まで染み渡る。

その匂いに促されるように、私は小さく頷いた。

那由多「よかった」

彼の尻尾が、ぴんと伸びる。

那由多「……俺のこと、信じられない?」

○○「それは…-」

那由多「だったら、お前だけが特別だって理由、教えてやる」

そう言って彼は私の手を取ると、自分の襟元を掴ませる。

那由多「脱がせてよ」

○○「……!」

彼は私の反応を楽しむように、笑みを浮かべていた。

那由多「一緒にお風呂入って、もっと仲良くなろ?」

那由多さんの胸の鼓動が、襟元を掴んだ手から伝わってくる。

那由多「俺は本当に好きな奴じゃなきゃ、触らせない。 こんなことするのは……○○が初めてだよ」

○○「嘘……」

那由多「どうして、嘘を吐く必要があるんだよ。 わりと、好意はみせてきたつもりだけど?」

二又の尻尾が、まるで甘えるように私の腕に絡みつく。

(あ……)

そのまま、那由多さんの手に導かれるまま……

そっと、彼の襟元をはだけさせた。

はらりと着物がずれ、那由多さんの肌があらわになる…-。

○○「っ……!」

彼の胸板は、想像していたよりもずっと逞しくて……

直視できず、視線を逸らしてしまう。

○○「……ごめんなさい」

ゆらりと尻尾が私の腰に絡みついたと思うと、那由多さんに顔を覗き込まれた。

○○「あ、あの……?」

那由多「なんで謝るの? 俺はこうやって、お前とずっと、ひっついていたいのに……」

(那由多さん…-)

彼の体から漂うのは、温泉独特の香りと、あの薔薇の甘い匂い…-。

那由多「不思議だな。こんなふうに俺が、自分の懐に女の子を入れるなんて……。 これが恋の病って、やつなのかな」

ゆっくりと……彼の腕が私の体を包み込む。

彼の胸に抱かれながら、私は瞳を閉じた。

そして聞こえてくるのは、温泉に注がれるお湯の音と……那由多さんの鼓動だけだった…-。

おわり。

<<太陽7話||太陽SS>>