さまざまな色の花々が、風に揺れている。
(……綺麗)
私は那由多さんに連れられて、広大な花畑へやってきた。
那由多「今回摘むのは、この黄色い花だ」
○○「かわいらしい花ですね」
光沢のある柔らかな花びらは、パンジーに似ている。
那由多「花の精の国や、花と緑の国から種を分けてもらって育てているんだ」
私も那由多さんから籠を受け取り、同じように花を摘む。
那由多「そっちは、天狐の国から分けてもらった薬草」
彼が指さす方向には、青々とした薬草が生えていた。
○○「いろんな植物がありますね」
どこまでも続く鮮やかな花の絨毯に、感嘆の息を漏らす。
那由多「毎回必要な花を余所から持ってきてもらうのは、苦労をかけると思ってな。 だから育てられるものは、ここで育てている。 この国で育たないものは、届けてもらってるけど」
○○「交易も、那由多さんが?」
那由多「ああ。外の奴の話を聞くのは好きだからな。 もっとも、一方的に来てもらってばっかりだけど」
那由多さんは膝で頬杖をつきながら、嬉しそうに笑っている。
(あれ? でもなんでだろう?)
ふと、素朴な疑問が湧いてくる。
○○「温泉があるのに、なんで入浴剤が必要なんですか?」
那由多「湯治は時間がかかるから、毎日同じ湯だと代わり映えしなくて飽きちゃうだろ? だから、せめて色や香りを変えて楽しく湯治を続けてもらいたいと思ってね」
(そのために、この広い花畑を作ったなんて)
(湯治に訪れる人達を、本当に大切に思っているんだな)
那由多「薬草をいれることで、元の温泉とは別の効能を足すこともできるし」
○○「いいことばかりですね」
那由多「そうそう。こうやって、花に癒されるしね」
そう言いながら彼は、摘んだ黄色い花に香りを嗅ぐ。
私も彼にならって、花の香りを楽しんだ。
(爽やかな香り)
(お湯にいれたら、気持ち良さそう)
那由多さんは黄色い花で一杯になった籠を持つと、立ち上がる。
那由多「あとで、お前のために特別な入浴剤を作ろうか」
○○「いいんですか?」
那由多「次、こっちね」
那由多さんはやっぱり私の問いには答えずに、軽やかに歩き出す。
けれどもう私も、その気ままな振る舞いに戸惑うことはなかった…-。
…
……
私は整備された温室へと案内された。
○○「温室……まであるんですね」
驚いて室内を見渡していると、那由多さんは誇らしげに胸を張った。
那由多「すごいだろ? ちょっとばかし気合を入れて、建てさせたんだよ」
(これだけの種類の植物……管理するだけでも大変そう)
那由多「○○も気にしてた、恋煩いに効く温泉にさ。 甘い香りのする入浴剤を追加してみようと思って」
『恋煩い』という言葉と、彼の無邪気な笑みにドキリとする。
○○「今度は、どんな花を摘むんですか?」
那由多「そうだな……お前の好みで、恋にぴったりの花、選んで欲しいんだけど」
○○「恋に……?」
那由多「楽しみだ。どんな入浴剤ができるのかな」
那由多さんが、にこりと微笑む。
その笑みこそ、私の心に咲く恋の花のようだと思ってしまうのだった…-。