太陽SS 恋にぴったりの花

自慢の植物園に、〇〇を案内する。

咲き乱れる花々に、彼女は感心したように目を見開いた。

○○「温室……まであるんですね」

(いちいち反応がかわいい子だな)

花を興味深げに眺めている○○を見ていると、得意な気分になる。

(病は気から、っていうくらいだしね)

(だから、恋の病は気持ちが何より大切だって、そう思う)

恋だけでなく、長く湯治を続ける客に飽きずに湯に浸かってもらうためにも、この温室を建てた。

(ここは香りや見た目にこだわった花をたくさん用意したけど)

○○は、花の香りを吸い込んで幸せそうに微笑んでいる。

(あ……)

胸の奥の方で、微かに音が鳴った気がした。

那由多「すごいだろ? ちょっとばかし気合を入れて、建てさせたんだよ。 ○○も気にしてた、恋煩いに効く温泉にさ。 甘い香りのする入浴剤を追加してみようと思って」

俺の言葉に、〇〇が首を傾げる。

○○「今度は、どんな花を摘むんですか?」

(どんな花、か)

那由多「そうだな……お前の好みで、恋にぴったりの花、選んで欲しいんだけど」

○○「恋に……?」

驚いたように目を見開く彼女の頬が少し赤く染まったような気がして……

(あれ。俺のこと、意識してくれてる?)

確信はないけれど、幸せな予感だけは胸の奥にある。

那由多「楽しみだ。どんな入浴剤ができるのかな」

〇〇「わかりました。選んでみますね」

那由多「ああ。よろしくな」

〇〇は小さく頷いてから、温室の中をゆっくり回り始めた。

何十種類もの花をひとつひとつ丁寧に触れながら、香りを確かめていく。

彼女が花達を大切に扱ってくれていることが、俺の心を温かくさせた。

(ああいうとこ、好きだな)

ふと、霞がかっていた心が明るくなったような気がした。

(好き……ああ、そうか)

(彼女にひっつきたいなって、思うのって)

自分の気持ちを持て余しつつ、少し離れたところから眺めていると……

(あ……)

好みの香りを見つけたのか、まるで咲くように顔をほころばせた彼女の目を奪われる。

(花みたいだ)

かわいいなと思ってつい顔が緩む。

不意に〇〇がこちらを向いて、俺を手招きした。

〇〇「これにします」

彼女が選んだのは、この温室の中でも甘い香りの持つ、橙色の薔薇だった。

(これって……)

意外な選択に、思わず目を見開く。

那由多「その花を選ぶとは、やっぱりお前は重症みたいだな」

○○「重症?」

那由多「恋の病の」

○○「え……」

(……相手は、誰?)

内心すごく気になったけど、俺は努めて平静を装った。

(まだ使ったことはないけれど、恋愛という意味ではこれ以上の花はないのかもな)

○○に説明をしながら、一本折って棘を取っていく。

那由多「早速、効果があったみたいだな」

○○「那由多さん……?」

那由多「バラの花弁をたくさん浮かべた温泉に、お前と入るのも悪くない」

俺の言葉に、〇〇が驚いて固まる。

混乱したような表情で見つめられるけれど……

(顔、真っ赤だ)

嫌なわけじゃなさそうなことに安堵しつつ、俺は笑顔を作ってみせた。

那由多「よし、試しに一緒に入るか!」

○○「ま、待ってください!」

慌てて首を振る彼女は、耳まで赤くなっていて……

○○「一緒にって、そんな。また、冗談ですよね……?」

那由多「嫌?」

俺の言葉に、〇〇の瞳が小さく揺れる。

けれど、見つめる俺から、彼女は視線を逸らさない。

(嫌、じゃないか)

嬉しさに揺れ始める尻尾を、隠すことはできなかった。

けれど、彼女はそのことには気づかない様子で…-。

那由多「行こう。俺専用の露天風呂に案内するよ」

(もし〇〇が来てくれたら……)

ちゃんと思いを伝えようと決意して、俺は出口へと歩き出す。

(いや、でも来てくれなかったらどうしようかな)

わずかな不安に襲われた時……

○○「あっ、待ってください!」

慌てた彼女の声とともに追いかける足音が聞こえ、俺の心が高揚する。

ご機嫌になって揺れる尻尾を隠すように振り返って、俺は彼女が追いつくのを待ったのだった…-。

おわり。

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