太陽最終話 君しか見えない

夜の帳が下り、静けさに満ちた九曜の城内で…―。

ヒノト「○○……起きてる?」

(ヒノトさん……!)

公務を終えたヒノトさんが、約束通り部屋を訪ねてきた。

(来ちゃ駄目です、ヒノトさん……!)

妖狐「どうぞ、お入りください」

妖狐は笑顔を作り、ヒノトさんを部屋へ迎え入れる。

ヒノト「あれから少しは休めた?」

妖狐「それが、一人でいると怖くて……」

妖狐はヒノトさんの前で、不安げにまつ毛を伏せる。

ヒノト「それなら、今夜は一緒に休もうか。 一晩中、俺が君の傍にいるよ」

妖狐「本当ですか? 嬉しい……」

ヒノト「ああ……だから、もうそんな悲しそうな顔をしないで」

ヒノトさんの瞳が、私を包むように優しく見つめる。

(でも、ヒノトさんが見つめているのは、私であって私じゃない)

こんな状況なのに、ヒノトさんが他の人に優しくするのを見るのは辛くて……

(私……ヒノトさんに私自身を見てもらいたがってる?)

(ヒノトさんが、他の誰かに優しくするのが嫌なんだ……)

妖狐「ヒノトさん……」

妖狐はヒノトさんの手を引き、誘うように寝具の上へ横たえる。

ヒノト「積極的だね……でも、悪くないかな」

妖狐はふっと目を細め、ヒノトさんの上へ跨るように座った。

そして……

ゆっくりと顔を寄せ、ヒノトさんに口づけを迫る。

(いや、やめて……!)

けれど、ヒノトさんは妖狐口づけをさり気なくかわし……

ヒノト「俺の着物、脱がせてくれないの?」

妖狐「ええ……今」

妖狐はヒノトさんの着物に手をかけ、するりと帯を解き始める。

(そんな……)

妖狐「ヒノトさん……」

ヒノトさんの着物の袷に手を差し入れながら、妖狐はもう一度口づけをねだる。

顔を近く寄せ、唇が触れかけた、その時……

ヒノト「ねえ……ところで君は誰なのかな?」

妖狐「何……?」

妖狐の隙をつき、ヒノトさんは私の額へ指を添えると……

ヒノト「汝、闇に蠢く異形の者よ……悪しき戒めから、彼の者を解き放て…―」

何事か、耳慣れない祝詞のような文言を唱え始めた。

すると……

妖狐「っ……! 祓いの詞……!」

ヒノトさんが口にした文言が響き渡り、体の芯まで清められるような心地がして……

狭い場所に押し込まれていた意識が浮上し、徐々に体の感覚が戻り始めた。

妖狐「貴様、なぜ見抜いた……ッ!」

妖狐は私の体を手放すまいと、必至に自らを抱きしめる。

ヒノト「なぜって……言うまでもないと思うけど。 ○○はお前みたいに、はしたない女じゃないからね」

(ヒノトさん、ちゃんと気づいてくれてたんだ……!)

その瞬間……

妖狐「ぐああっ……!」

私の体からはじき出された妖狐が、醜く床へ這いつくばる。

妖狐「まだだ……っ! せめてその女を食らい尽くす!」

ヒノト「……しつこいね」

ヒノトさんは冷たい目で妖狐を見下ろし、床の間に飾られていた立派な剣を引き寄せる。

(この剣が……ヒノトさんが言っていた神剣?)

(私の部屋に置いていてくれたってことは、最初から……?)

胸がいっぱいになり、ヒノトさんから視線を逸らせずにいると……

ヒノト「○○、おいで」

(ヒノトさんが、私を呼んでる……)

私はおぼつかない足取りで、ヒノトさんの胸へと飛び込んだ。

ヒノト「無事でよかった……」

ヒノトさんは安堵の息を漏らし、私に頬を磨り寄せた。

(ヒノトさん……)

妖狐「貴様、この私を袖にするとは……ッ!」

私達をぎらりと睨みつけ、妖狐が激しくいきり立つと同時に……

ヒノト「……邪魔者は消えていいよ」

ヒノトさんは私を片腕で抱えたまま、鞭のようにしなる神剣で妖狐をなぎ払った…―。

……

意識が戻ると、温かな肌の感触が伝わってきた。

(ここは……?)

ゆっくりまぶたを持ち上げると……

ヒノト「やあ、おはよう」

○○「ヒノトさん? わ、私……っ!」

気がつけば、私がヒノトさんに覆い被さる形になり、間近で見つめ合っていた。

ヒノト「このまま、さっきの続きする?」

○○「続きって……」

ヒノト「君が脱がせたんだよ?」

(あっ……)

ヒノトさんのはだけた胸元に気づき、慌てて視線を逸らした。

ヒノト「照れてるの? さっきはあんなに大胆だったのに…―」

(え……っ?)

体がくるりと回転し、今度はヒノトさんに組み敷かれる。

手首を褥に縫いつけられ、心臓が痛いほどに早鐘を打っていた。

(ヒノトさん……)

ヒノト「本当の君は、こんなにもかわいくて……」

先ほどは避けられた口づけが、ヒノトさんから落とされる。

ヒノト「だから俺には、君しか見えないんだよ……」

会話を挟みながらも、甘い口づけは止まらない。

○○「ヒノトさん、私……」

話しかけた言葉は、再びキスで塞がれる。

ヒノト「逃げないってことは……いいんだよね?」

ヒノトさんの妖艶な笑みが、私の心を揺さぶり、惑わせる…―。

熱を帯びた彼の瞳は、確かに私だけを見つめていた…―。

おわり。

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