その後…ー。
ミヤと城へ戻り、怪しい魔術師のことを報告し終えると、城の警備が強化された。
物々しい雰囲気の中、ミヤは城の人達に元気いっぱいに振る舞い、その笑顔が皆を明るくさせていた。
それから…ー。
(ミヤ、どこに行っちゃったんだろう)
(また森に行ったのかな?)
森へ足を向けようとしたその時、書斎からたくさんの本を抱えたミヤが出てきた。
ミヤ「あれ? どこか行くの?」
◯◯「ミヤ!」
両手に抱えた本の隙間から、ミヤが私の顔を覗く。
◯◯「勉強……?」
ミヤ
「そう。 魔術を、もう一度基礎からちゃんと学ぼうと思って。 今まで我流でやってきたけど、それだと限界があるし」
ミヤの瞳が強く輝く。
ミヤ「もっと強くなりたいからさ!」
冗談めかしてミヤが笑う。
◯◯「うん!」
ミヤ「それに、今のところ音沙汰ないけど対立国もいつ動くかわからないからね」
突然に真剣な表情を浮かべ、ミヤがつぶやく。
ーーーーー
ローブの男「こんなところで供もつけずに……不用心だな、ミヤ王子」
ミヤ「誰だ」
ローブの男「イリア王子に用があったんだが、生憎今は城にいないようでな」
ーーーーー
◯◯「あの魔術師のこと……?」
ミヤ「ああ。あいつ、イリアに用があるみたいだった……そして、もうすぐイリアが帰って来る。 でも心配しないで。もし来ても、オレが撃退するからさ」
ミヤが、にっこりと私に笑いかけてくれる。
◯◯「きっと、ミヤならすぐに撃退しちゃうね」
ミヤ「任せといて!」
輝くミヤの笑顔が本物の太陽のようで、私の胸まで温かくする。
その時…ー。
王妃「何をしているのですか?」
王妃様の冷たい声が、温かな雰囲気に影を落とした。
王妃「ミヤ……その本は?」
大量の本を抱えるミヤを見て、王妃様がいぶかしげに尋ねる。
ミヤ「魔術を、きちんと勉強しようと思いまして」
王妃「いったいどんな風の吹き回しかしら」
あざ笑う口元を手で隠して、王妃様はミヤを冷たい瞳で見つめた。
(ミヤ……)
ミヤ「オレ、頑張ることにしたんです。イリアに負けないくらい」
王妃様の視線に怯むことなく、ミヤはきっぱりと言い切った。
王妃「そう……それは面白いわね! 楽しみにしてるわ」
王妃様の笑い声が、廊下に響き渡った。
(ひどい……)
◯◯「ミヤなら、きっとできます!」
思わず、そう口に出してしまっていた。
ミヤ「◯◯ちゃん……」
王妃「トロイメアの姫君は、ミヤと仲が良いのですね。 ですが、あまりミヤに肩入れしすぎないでいただきたいですわ。 この国を継ぐにふさわしい人間は、イリアですから」
ミヤ「……」
容赦ない言葉が、胸に突き刺さる。
王妃様は踵を返し、その場を去って行った。
◯◯「ミヤ……」
本を抱えながら、ミヤは立ち尽くしていた。
私まで胸が苦しくなって、胸元で手を握りしめた。
(せっかく、ミヤが頑張っているのに……)
けれど…ー。
私の心配をよそに、ミヤはくすくすと笑っている。
◯◯「え? ミ、ミヤ……?」
ミヤ「◯◯ちゃんは度胸あるなー! あの怖~い、母上に向かって!」
◯◯「だ、だって……!」
抱えてる本を床に置いて、ミヤが私の頭に手を乗せる。
ミヤ「ありがとう。すごい嬉しかった。 大丈夫だよ」
澄んだ空色の瞳が、私をまっすぐに見つめている。
その瞳が、だんだんと近づいて……
◯◯「……っ」
前髪が優しく掻き上げられて、額にキスが落とされた。
ミヤ「感謝のしるし」
突然の出来事に、火照る顔を抑えながら、私はにこにこと笑うミヤを見つめることしかできなかった……