呪文を唱えると、掌に赤い炎が燃え盛った。
ミヤ「あちっ……!」
危うく手を火傷しそうになり、オレは急いで呪文を唱えるのをやめた。
(おかしいなぁ。魔術書に書いてある通りにやったのに……)
新しい魔術の練習をしているけど、さっきからずっと失敗ばかり…―。
ミヤ「どこが違うのかな~?」
魔術書をすみからすみまで読んでも、失敗した原因がわからない。
(イリアはこんなの簡単にできるんだろうな……)
そんなことを思っていると、ふうっと一つため息が漏れた。
(だめだ、だめだ!)
オレは自分の頬をぱんっと叩いて、気合を入れる。
ミヤ「よしっ……!」
(今までなら諦めていたけど、もう諦めるのはやめだ!)
(だって、今は……)
ふと、脳裏に○○ちゃんの笑顔が浮かぶ。
彼女を思い出しただけで、胸の奥がじんわりと温かくなった。
(守りたい人がいる)
(この魔術を、絶対に使えるようになってみせるんだ!)
掌にぐっと力を入れ、魔術の練習を再び始める。
火傷の数が増えるたび、オレはどんどん強くなれるような気がした…―。
この時はまだ、この力を使う日がくるなんて思ってはいなかったけど…―。
数日後…―。
イリアが帰ってきたと勘違いした敵国の魔術師たちが、城の中に侵入してきた。
魔術師「また機会を改めるが、その前に……」
魔術師が呪文を唱えると、炎の蛇が長くとぐろを巻き暴れ出した。
○○「……!」
その炎は、○○ちゃんの周りを取り囲む。
ミヤ「○○ちゃん!」
(落ち着け……あの時、勉強したことを思い出すんだ)
(キミは……オレが助けてみせる!)
オレは記憶の断片を拾い集め、練習した魔術を思い出す。
魔術師「全部、燃えてしまえ!」
叫び声と共に、魔術師は手を振り上げた。
(させるか!)
オレは意識を集中し、両手を広げて呪文を唱えた。
そして、燃え盛る炎に向かって、スッと手をおろす。
すると…―。
ミヤ「……!」
炎は音もなく消え去った。
(よしっ!)
魔術師「!? 何故だ!?」
魔術師が戸惑うその一瞬をついて、兵士達が取り囲み抑え込む。
ミヤ「大丈夫!? ○○ちゃん!」
オレは急いで○○ちゃんの元へと駆けていく。
○○ちゃんは、まだ体を震わせていた。
(怖い目に合わせちゃったな……)
そう思うと、ズキンと胸の奥が痛くなる。
(こんな目に……もう二度とあわせてたまるもんか)
国王「ミヤ、まさか炎の魔法を打ち消したのか!? イリアもまだ身につけていない術だぞ!」
ミヤ「えっ……!?」
(イリアもまだの魔術を……オレが?)
王妃「た……たまたまに、決まってますわ」
母上は相変わらずオレを認めようとしないけれど、
不思議なくらい、オレは気にならなかった。
(いつものことではあるんだけど……)
けれど母上の言葉を聞いて、○○ちゃんの眉が悲しそうに下がった。
(あ……○○ちゃん、気にしてるんだろうなぁ)
(でも大丈夫だよ、○○ちゃん)
オレは思わず肩をすくめて笑ってしまう。
(本当のオレを、ちゃんとわかってくれる人がいるから)
笑っているオレを、○○ちゃんは不思議そうに見上げる。
(○○ちゃん、キミのおかげだよ)
(この気持ちも、後でちゃんと伝えよう)
オレはこの時、初めて本当に笑えた気がした。
キミがオレのそばに居てくれる限り、オレの笑顔は本物であり続ける。
きっと、ずっと…―。