空中庭園は、以前お茶会に誘われた時とは違い、どこかひっそりとしていた。
マッドハッター「では私の出した答えを・・・・ー」
○○「ま、待ってください!」
マッドハッター「おや・・・・」
震える声を挟むと、帽子屋さんの瞳が不思議そうにまばたいた。
○○「・・・・帽子屋さんの話を聞く前に、私の気持ちを伝えておきたいんです。 私はいつまでもここにいるわけにはいきません・・・・。 だから、私はあなたの言うアリスにはなれないんです」
マッドハッター「・・・・」
帽子屋さんは私を見て、口を閉じる。
沈黙をさらうような風が私達の間に吹き、庭園の花々を揺らす。
○○「何より帽子屋さん・・・・私にはあなたが今のこの世界を楽しんでいるように思えます」
マッドハッター「・・・・私が?」
○○「はい。私を連れて街を回った時も、お店でも、最初にお茶会に呼んでくれた時も・・・・。 帽子屋さんはいつも笑っていました。だから・・・・」
マッドハッター「・・・・成程」
彼は帽子のつばを指先で掴むと、私に表情を見せまいと、深くシルクハットを被り直した。
でも、やがてのどから響く笑い声が、庭園に吹きつける風に混ざり始める。
マッドハッター「どうやら、私の負けのようだ」
○○「え・・・・?」
その瞬間、彼はひらりと身をひるがえすようにして、私の腰元を抱き寄せた。
途端に整った美しい顔が、私の目の前に近づいて・・・・
マッドハッター「○○嬢、君はどこまでも私の期待を裏切ってくれる。・・・・ただし良い意味で」
艷のある唇で名前を囁かれ、心臓が跳ね上がった。
頬が熱を持ち、彼に抱き寄せられた体も緊張で動かなくなる。
マッドハッター「この世界には確かにアリスがいた時のような不思議はない。 だけど、君が現れたことにより、新たな不思議が溢れてしまった・・・・。 やはりワンダーメアは、まだ失われてはいない・・・・ならば私の選ぶ道も、また決まっている」
彼はそれまでのミステリアスな雰囲気を一変させて、私の前で片膝を折った。
そして伸ばした指で、私の手をすくう。
マッドハッター
「○○嬢、私はこの世界の変革よりも、君にこそ惹かれている。 どうかこの私を、君の恋のしもべにしてはくださいませんか?」
彼の少し薄い唇が、私の指先に、懇願にも似た口づけを落とした。
今や私の心臓は弾けてしまいそうに早鐘を打ち、瞳は彼の方を向くばかりだった。
○○「・・・・私で・・・・いいんですか?」
マッドハッター「ええ、私のリトルプリンセス?」
美しいエメラルドの瞳が、挑戦的に輝く。
私はその宝石のような瞳にすっかり魅せられていた。
マッドハッター「これはいい・・・・! では本日これより、私は君だけにイカレる帽子屋というわけだ!」
○○「っ、帽子屋さん!?」
急に立ち上がった彼が私を抱きしめて・・・・
そっと耳元に口づけにも似た言葉を囁く。
マッドハッター「ではさっそく、お茶会など開いて、この事実を公表しなければ・・・・。 ・・・・ね?」
片目をつむって、人差し指を唇の前に差し出してみせた彼。
私はその少年のような笑みから、視線を逸らすことができなかった・・・・ー。