錬金術師さんの研究室を訪ねた夜…-。
今夜も開かれたクリムパーティに出席した後、私はジョシュアさんと連れだってバルコニーへ出た。
頬を撫でるひんやりとした夜風が、パーティで火照った頬に心地よい。
(素敵なご夫婦だったな)
研究に没頭する夫を支え、妻は報告書をまとめたり研究成果を商売にしたりして、二人三脚で暮らしていると、朗らかに話してくださった。
ジョシュア「嬉しそうな顔をして、どうかした?」
〇〇「昼間のご夫婦のことを考えていました。 ああやって二人で支え合っているのって、素敵だなって…-」
(あ……)
―――――
ジョシュア『商談はオレの責務だ。君がやることじゃない』
―――――
あの時のことを思い出し、私は続く言葉を飲み込んだ。
〇〇「……」
黙り込んでいると、ジョシュアさんが私の頭を優しく撫でてくれる。
ジョシュア「ねえ、〇〇」
風が吹き抜け、ふわりとジョシュアさんの髪が揺れた。
ジョシュア「物質と物質が合わさって、新しい物が生まれるなら……人と人との思いだって、そうなると思わない?」
〇〇「え?」
月明かりを浴びながら、意味ありげに目を細める彼を見つめていると……
ジョシュア「手を出して」
そっと手を取られ、そのまま何かを握らされる。
ふわりと香るいい匂いに、なぜだか胸がくすぐられた。
〇〇「これは……」
ジョシュア「君があの時紹介してくれた茶葉だよ。 少し、手を加えてはいるけどね」
促されて手を前に伸ばすと、ジョシュアさんは私の肩を抱き寄せ、茶葉を包むようにもう片方の手のひらを重ねてきた。
すると…-。
〇〇「!」
手のひらから、赤い光がきらきらと美しくこぼれ出す。
〇〇「赤い光……」
ジョシュア「彼に少し教えてもらってたら、偶然できたんだ。精霊の国の火の魔石を使うとこんなに綺麗に発光する。 驚いたよ」
ジョシュアさんの薄緑色の瞳に赤い光が織り交ざり、幻想的な色味を帯びる。
それは息を呑むほど美しく見えた。
〇〇「不思議ですね……」
赤い光に包まれ、心が熱くなっていく。
鼓動がトクトクと、胸を切なく震わせていた。
ジョシュア「……最初はただ、君が愛おしかった。 いつの間に、オレはこんな欲張りになったんだろう。 君のことを、独り占めしたいだなんて…-」
〇〇「……それは私も同じです。 変わらずジョシュアさんのことが大好きです。だけど……。 気づけば、隣に立ちたいって思いが強くなっていました」
そう言うと、ジョシュアさんがわずかに目を見開いた。
〇〇「ジョシュアさんのいう通り……人と人との思いは、交わって、ぶつかって……。 変わっていくものなんだって思います」
傍にいる時間が長くなればなるほど、想いは強くなり、その色を変えていく。
自分の中の変化を感じながら、私は心を込めて彼にそう告げた。
ジョシュア「……そうだね。クリムライトももしかすると、刹那の瞬間に生まれた思いなのかもしれない。 この光もきっと……オレが今この瞬間、君に感じる深い愛が生んだものだ」
耳に落ちる熱い吐息に火照りを感じていると、淡く赤い光が収束していく。
やがて完全に光は消え、薄い月明かりが辺りを照らすばかりになった。
ジョシュア「〇〇」
静けさが満ちる空間に、私の名前を呼ぶ声が優しく響く。
ジョシュア「仕切り直しさせてくれる?」
そう言って、ジョシュアさんは恭しく跪いて胸に手をあてた。
迷いも憂いもない彼の視線が注がれ、私の鼓動は痛いほど速まっていく。
ジョシュア「〇〇。どうかこれからもオレと共に。 二人でこれからも……いろんな想いを重ねていこう。 過去も今も、これからも……愛してるよ」
熱っぽく言い終えると、ジョシュアさんは立ち上がり、私と向き合う。
〇〇「はい……」
嬉しさで胸を詰まらせながら返事をすると、彼の腕にしっかりと抱きしめられた。
ジョシュア「〇〇……」
頬に手を添えられ、そのまま唇が重なり合う。
〇〇「ん……」
抱きしめられる力が強くなるほど、次第にキスも深くなり……
(愛してる……)
触れ合う部分から生まれる熱が、二人の新しい愛の証のように思えたのだった…-。
おわり。