その翌朝…-。
(よく眠れなかった……)
一晩明けても、まだ彼の手の熱が腕に残っているようだった。
―――――
ジョシュア『君にはずっと、オレがいないと駄目でいてほしいんだ』
―――――
(ジョシュアさんが、あんなふうに思っていたなんて……)
苦しげな彼の表情が、未だ頭に残って離れない。
気まずさを抱えながらも、私は彼の元を訪れた。
ジョシュア「〇〇……」
私の姿を見て、ジョシュアさんは切なげに眉を下げる。
その仕草に、ずきりと胸が痛んだ。
ジョシュア「……もう会ってくれないかと思ってた」
〇〇「そんなこと、絶対にありません」
激しい熱情を向けられ、驚きこそしたものの……
(嫌じゃ……なかった)
想いを改めて自覚し、私は彼をまっすぐに見つめる。
〇〇「私は、ジョシュアさんが好きだから」
すると、ジョシュアさんは優しげに目を細め……
ジョシュア「ありがとう」
すっと、優雅に腕を差し出す。
ジョシュア「虫がいい話かもしれないけど……錬成方法の手がかりを見つけにいこう」
〇〇「え……?」
ジョシュア「名誉挽回。君に格好いいところを見せたい」
〇〇「……はい!」
私は満面の笑みを浮かべ、彼の腕に手を絡ませた…-。
…
……
ジョシュアさんに連れられてやってきたのは、この国で有名な錬金術師さんの研究室だった。
研究室は薄暗く、暗い色をした液体がフラスコの中でコポコポと音を立てている。
(なんだか不気味……)
思わず、ぎゅっとジョシュアさんの腕を握ってしまうと……
ジョシュア「そんなに怖がらなくて大丈夫だよ」
錬金術師さんには聞こえないよう、こっそり耳打ちしてくれる。
錬金術師「おや……」
視線を机に戻すと、フラスコの中でチカチカと何かが発光し始めていた。
〇〇「これは…-」
錬金術師「また新しい反応だ。お客人がいるからかな?」
ジョシュア「どういうことですか?」
フラスコから目を離さないまま、錬金術師さんが口を開く。
錬金術師「この国の錬金術は繊細なんだよ。何かが違えば結果も違ってくる。 物質だけじゃあない。気温や場所、それにもしかしたら思いなんてのも……結果を左右する。 これは、私個人の考えだがね」
面白そうに笑う錬金術師さんの顔を見つめながら、ジョシュアさんは何かを考え込んでいるようだった。
ジョシュア「思い……」
すると…-。
??「ちょっとあんた! お客人ほっぽってまた研究たあ、失礼じゃないか!」
威勢のいい声と共に、しゃきしゃきとした女性が奥から姿を現す。
その女性は、どうやら錬金術師さんの奥さんのようだった。
錬金術師「か、彼らが見たいというから…-」
妻「すみませんねえ、この人昔っから研究ばっかりで……礼儀の一つも知らないったら。 結婚した後も、あたしのことだってそっちのけで。たまには労わってほしいもんですよ!」
あっけに取られた私とジョシュアさんはお互いの顔を見合わせる。
妻「ねえ、そう思いませんか? 王子様。女性は大切にするもんですよねえ?」
ジョシュア「ええ……」
ジョシュアさんは私を見て、苦笑いを浮かべたのだった…-。