翌日…―。
街は昨日と同じように、心地よい雨音に包まれていた。
店主「では、こちらになります。素敵なお茶会を」
○○「ありがとうございます」
彼とのお茶会が始まる、少し前……
一人で昨日のお菓子屋さんを訪れた私は、薄桃色の風呂敷に包まれた商品を受け取った。
(きっとこのお菓子なら、フォーマも喜んでくれるんじゃないかな)
彼の笑顔を思い浮かべると、胸が躍るようだったけれど……
(いけない、急がないと)
約束の時間が迫っていることに気づいた私は、急いで城へと戻ったのだった…―。
…
……
茶室にやって来ると、先に来ていたフォーマが畳に座って中庭を見つめていた。
○○「ごめんね、待たせちゃったかな」
せっかくなら一番おいしいものをと悩んでいたせいで時間ぎりぎりになってしまった私は、フォーマの傍に歩み寄り、そのことを謝る。
フォーマ「いや、大丈夫だ」
私達しかいない部屋に、フォーマの優しい声が静かに響いた。
(そういえば、今日は部屋を貸し切っているんだっけ)
二人きりで過ごせる喜びを噛みしめて、彼の隣へと座る。
○○「綺麗なお庭だね」
静かに降る雨が中庭の植物を濡らし、鮮やかな色を作り出していた。
○○「ほら見て、あそこにかたつむりがいる」
フォーマ「ああ……そうだな」
(あれ……?)
フォーマの様子に、微かな違和感を覚える。
声や言葉こそ優しいものの、彼はあまり目を合わせてくれなかった。
(やっぱり、待たせちゃったのを怒ってるのかな)
○○「フォーマ?」
不安に駆られて口を開くけれど、フォーマは逃げるように立ち上がり……
フォーマ「じゃあ、お茶を点てようか」
彼は室内に置かれた茶釜の前へと移動する。
そして私が傍に座ったのを見ると、慣れた手つきでお茶を点て始めた。
(気のせい……だったのかな)
少しの不安を抱いたまま、軽やかな茶せんの音に耳を傾ける。
(いい音……)
静かな雨音と茶せんの音が、不安を少しずつ消していってくれた。
けれど落ち着きを取り戻す私の心とは反対に、茶せんの音は次第に乱れていく。
そして……
フォーマ「あっ……」
茶碗からお茶が少しこぼれてしまい、フォーマが小さく声を上げる。
○○「大丈夫?」
フォーマ「あ、ああ。大丈夫だ」
そう答えながらも、こぼしたお茶を拭く彼の動きは明らかにぎこちない。
○○「どうしたの? 今日のフォーマ、なんだか少し変だよ?」
フォーマ「ごめん、少し気になることがあって…―」
○○「気になること……?」
フォーマは畳に視線を落としたまま、黙り込んでしまう。
(どうしたんだろう?)
彼の端正な顔立ちが曇って見えて、消えかけた不安が再び大きくなったのだった…―。