太陽最終話 交流を求めて

赤い絨毯が敷かれた廊下に、大勢の微かな声がさざ波のように広がっていく。

ロイエさんの体調が気になり、私は会議が行われている部屋の近くまで足を運んでいた。

(ロイエさんは……)

廊下の先、王族の人達の中に彼の姿を見つけた。

思っていたよりも顔色は良く、寧ろ溌刺とした様子でルグランジュくんと話をしている。

ロイエ「これは過去100年分の資料だ。それ以前の資料もまとめてある」

ルグランジュ「そんなに……!」

ロイエ「約束したはずだ。君を徹底的にサポートすると」

ロイエさんは、激励するようにルグランジュくんの肩を叩いた。

ロイエ「歴史の記録から、この会談は上手くいくと断言できる。 だから、自信を持つんだ」

ロイエさんの瞳は、優しくも頼もしくて…-。

ルグランジュくんの瞳に、じわりと涙が浮かぶ。

(ロイエさんの言葉が、ルグランジュくんを後押ししてる……)

私は声をかけることも忘れ、その様子を見つめていた。

しばらく言葉を交わしてから、ルグランジュくんは何度もお礼を言って去っていった。

〇〇「ロイエさん」

ようやく声をかけると、ロイエさんは驚いたように目を見張る。

ロイエ「来てくれたのか」

〇〇「ロイエさんの体調が心配で」

ロイエ「心配することはない。君の持ってきたチョコレートのおかげか、効率良く疲労回復ができているようだ」

ロイエさんは小さく微笑んでから、申し訳なさそうに首を振る。

ロイエ「しかし、せっかくだがこれからまた魔法石板の間に戻らなければならない。 それから8時間43分後に、パーティがある。それまで君は、ゆっくり休んでいるといい」

ロイエさんは私の頭を優しく撫でると、踵を返す。

彼の背中が少しずつ離れていくと、寂しさが胸を締めつけた。

〇〇「私も一緒にいさせてください」

ロイエさんは、驚いたようにこちらを振り返る。

ロイエ「しかし……」

〇〇「ロイエさんがルグランジュくんをサポートしたいと思うように、私もロイエさんを支えたいんです」

ロイエ「……」

ロイエさんはじっと私を見つめていたけれど、ふと、その目元が優しくほころんだ…-。

……

石板の傍らに座るロイエさんに、紅茶を出す。

ロイエさんの手元で、青い光が文字を刻んでいくのが見えた。

〇〇「すごい……」

その光に見とれる私を見て、ロイエさんが微笑みを漏らした。

ロイエ「昨日から、1058年分の記録をさらうことができた。 国と国が結ばれる記録を確認することができたわけだが……」

ロイエさんが、感慨深げに息を吸う。

ロイエ「それは、人と人とが結ばれるということ。 ユリウス王子やパティル王子も国を背負ってはいるが、個人としても交流を深めたいと聞いている」

ロイエさんは、思い返すように穏やかな表情を浮かべた。

ロイエ「最初は互いの利益だけで結ばれていた二者が、徐々に影響し合い、成長していく……。 それを歴史の記録から、そして二人の王子から知ることができた」

(ロイエさん、すごく優しい顔をしてる……)

不意にロイエさんと視線がぶつかる。

引き寄せられるように目が合ったまま、彼に強く手を引かれて…-。

〇〇「……っ」

ロイエさんの膝の上に座らされ、頬が一気に熱を持つ。

ロイエ「考えてみれば、僕も君との関わりにより変化している。 女性とは非論理的で面倒なものだと思っていたが、君と出会ってから変わったんだ」

柔らかな前髪の隙間から、優しい光をはらんだ瞳が私を見上げる。

ロイエ「今では君という非論理的な女性に、僕自身が感情を揺り動かされている。 この感情を論理的に伝えるべきだと思うのだが……どうにも理路整然と言い表すことができない」

ロイエさんは一度唇を閉じてから、大事なものを扱うように言葉を紡いだ。

ロイエ「とにかく……君が愛おしくてたまらない」

神秘的で美しいその瞳は、まばたきも忘れたように私を映し出している。

〇〇「ロイエさん……」

彼に聞こえてしまうほどに、私の鼓動は大きく高鳴り始めた。

ロイエ「幸福の未来が待っているのなら、二者を繋ぐ価値はある。 記録の結び手とは……とても尊いものだったよ」

ロイエさんの指先が、そっと私の頬をたどった。

ロイエ「何より、今回確かに分かったことがある。 良好な関係を築くのであれば、積極的に歩み寄ることが大切だ。 どちらかが消極的な場合、その関係性は破綻することが多い」

ロイエさんの指先は顎をたどり、私の唇の形を象るように滑っていく。

ロイエ「よって、君との交流もより積極的に行うべきだと……そう思っている」

唇をじっと見つめる彼の眼差しに、体中が熱を帯びたように熱くなって…-。

不意に抱き寄せられ、優しく唇が重なった。

〇〇「……っ」

思わず体を微かに反らしてしまった私に、ロイエさんは悪戯っぽく笑いかける。

ロイエ「君も積極的になってくれれば、僕としても嬉しいのだが。 君はどうだろうか」

艶っぽくも優しい声色に、私の体は蕩けそうなほど熱くなっていて……

もう一度近づいた彼の唇を、私は目を閉じて受け入れていた…-。

おわり。

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