太陽7話 想いの開放

本が発する禍々しい気が、辺りの空気をさらに冷たくしている。

イナミくんは襟を正すと、宙に浮かんだ本へ鋭い眼差しを向けた。

イナミ「愛する人を想う気持ちは、人も物の怪も同じだ。その気持ちを比定する気はないよ。 でも……」

イナミくんは私へ向き直ると、一瞬だけ柔らかな視線を送ってきた。

イナミ「オレは、〇〇ちゃんを傷つけるものを、許すことはできない」

彼は強い意志が宿った翡翠色の目で、本を見据える。

イナミくんの気持ちを感じ取ったかのように、本から怒りに満ちた低いうなりが上がった。

イナミ「これを使えば、楽にしてあげられると思う」

イナミくんは胸元に手を差し入れると、一枚の白い紙を取り出す。

(お札……?)

イナミ「〇〇ちゃんに手を出すなら、手加減できない」

イナミくんは床を蹴ると、本との距離を一気に詰めて……

イナミ「……っ!」

本を蹴り上げ、無理に表紙を閉じると素早く札を叩きつけた。

イナミ「立ち去れ」

『……!! ぐあああああああ』

床が揺れるほどの絶叫が建物中に反響する。

〇〇「……っ」

思わず頭を抱えてうずくまっていると……

ふわりと肩に温かさを感じて、イナミくんに抱きしめられたのだとわかった。

イナミ「……」

やがて、浮いていた本が床に落ちる音が聞こえて……何事もなかったかのように静寂が訪れた。

(本は……どうなったの?)

まだ恐怖に体がすくんだまま、なんとか彼の腕の中で体を動かす。

イナミ「もう大丈夫だよ」

優しい声が聞こえて、見上げると…-。

イナミくんの瞳が、そっと柔らかく細められた。

〇〇「今のは……」

イナミ「本に宿っていた想いを、祓ったんだ。 まあ、オレは呪術に詳しくないから、いろんな人の手を借りてお札を作ったんだけどね」

イナミくんは温かな視線を、床に落ちた本へと向ける。

イナミ「本当にこれでよかったのかはわからないけど……この本も、これ以上苦しむことはないと思う」

(本当に……優しいな)

〇〇「イナミくん……ありがとう」

イナミ「ううん。キミこそ、怖かったでしょ? 震えてるよ」

〇〇「!」

息がかかるほどの近さで尋ねられ、私の胸は跳ね上がる。

イナミ「我慢しないで。〇〇ちゃんは、頑張り屋さんだね」

イナミくんは私の耳元に顔を寄せ、優しい声で囁いた。

耳を震わせる彼の声を聞きながら、私の心の中に、熱い想いが湧き上がる。

(イナミくんを想う気持ちが……止められない)

胸に顔を埋めると、イナミくんの鼓動が聞こえる。

―――――

イナミ『……愛する人への想いを、本の中だけにとどめておくことはできなかったんだね。 でも、駄目だよ。彼女は、オレの……大切な人』

―――――

(同じ気持ちじゃないかもしれない。でも……)

(この気持ちを、イナミくんにちゃんと伝えたい)

私は胸に強い決意を秘めて、ゆっくりと顔を上げた…-。

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