太陽最終話 叶えられる想い

図書館に立ち込めていた冷気は、徐々に薄れ始めていた。

抱きしめられていることで感じられる彼の温もりは、私の想いに比例して熱くなっている気がして…-。

(同じ気持ちじゃないかもしれない。でも……)

(この気持ちを、イナミくんにちゃんと伝えたい)

〇〇「イナミくん……」

けれども、次の言葉を告げる前に、彼に指先が私の髪に触れた。

〇〇「!」

イナミ「キミの痣は……」

彼の指先が髪を優しく払い、痣があった位置をなぞる。

首先に視線を感じ、そこから甘い熱が体の奥底まで広がっていく。

イナミ「綺麗に消えてる。よかった……」

〇〇「うん……」

安心したような笑顔を向けられて、わずかな後ろめたさを感じた。

イナミ「あの痣は……物の怪が血を吸う獲物につける、印みたいなものだって本に書いてあったから……」

〇〇「え?」

イナミ「キミが物の怪に狙われてしまうんじゃないかって……心配だったんだ」

頭に置かれた彼の手が、優しく私の髪を撫でる。

イナミ「あの本は、人間に叶わない想いを寄せた物の怪の念が閉じ込められていたんだよ」

〇〇「叶わない、想い……」

イナミくんは床に落ちた本を持ち上げ、そっと机の上に置いた。

(私を怖がらせないために、黙っていてくれたのかな……)

これまで幾度となく受け取った彼の優しさを思い出し、胸がいっぱいになる。

〇〇「ありがとう……」

不意に、あの絞り出すような切ない声を思い出す。

―――――

『私に気づいて……私を見てください……』

―――――

(あの声は……自分の想いに気づいてほしかったのかな)

届くことのなかったその訴えを思うと、胸が締めつけられた。

(……私は、この想いをイナミくんに伝えたい)

(だって……伝えることが叶うから)

私は意を決して、彼の服の袖をしっかりと掴む。

イナミ「〇〇ちゃん?」

〇〇「イナミくん、あのね……」

こちらに向けられた彼の視線を、まっすぐに受け止めた。

〇〇「私……。 イナミくんのことが好き」

口に出した途端、頬に熱が集まるのがわかる。

恥ずかしさのあまり思わず一歩身を引くと、強い力で腰を引き戻され……

次の瞬間、愛しい人の唇がそっと重ねられたことに気づく。

〇〇「!」

イナミ「オレも……キミが好きだよ」

短い口づけの後、彼は私の頬をそっと両手で挟んだ。

イナミ「物の怪がキミに痣を残したって知って……怒りが湧いた。 他の誰にも、キミにこうやって触れてほしくない。キミに触れるのは……。 オレだけがいいって、そう強く思ったんだ」

イナミくんの長い指先が、私の頬を優しく撫でる。

(それって……)

(イナミくんの『好き』って気持ちが……私と同じ気持ちってこと?)

嬉しさが先走り、問いたくても言葉を上手く紡げなくて……

イナミ「……キミは?」

彼は私の顎を持ち上げ、瞳の奥を覗いた。

イナミ「キミは、どれくらいオレのことが好き?」

〇〇「私は……」

彼の言葉に胸がいっぱいになり、涙がこぼれないようにするだけで精一杯だった。

(どれくらいなんて、そんなの……)

答える代わりに、私は彼の唇にそっと口づけた。

〇〇「……言葉じゃ、伝えきれないよ」

一瞬驚いた表情を浮かべた後、彼はすぐに優しく微笑んだ。

イナミ「ははっ、それもそうだね。 うん、わかった。じゃあ……こうしようか」

〇〇「え……?」

次の瞬間、彼が私の首に手を添え、顔をさらに近づける。

イナミくんの潤んだ瞳が一度切なげに瞬いたかと思うと、私の瞳を捉えた。

イナミ「オレの気持ちを、これからいっぱいキミに伝えるから……。 キミもオレに、いっぱい気持ちを教えて?」

大きな瞳に覗き込まれ、心臓が早鐘を打つ。

イナミ「駄目?」

彼が口を開く度に、熱い吐息が肌をくすぐる。

私は首を横に振ると、ゆっくり目を閉じた。

(駄目なはずない……)

イナミくんから再び落とされた口づけは、甘く溶けそうなほど優しくて……

微かな光をまぶたの裏に感じながら、私は彼から伝わる惜しみない愛に身を委ねるのだった…-。

おわり。

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