太陽最終話 おいしく、召し上がれ!?

息を切らしながら私の前まで駆けてくると、ガイドさんは自信ありげに親指を立ててみせた。

ガイド「お嬢ちゃん、人の姿に戻る方法がわかったよ!」

〇〇「ガイドさん!」

(探してきてくれたんだ……)

ガイド「で、ありゃなんです?」

カツ丼を持って辺りを見渡すヴィクトルさんを、ガイドさんも不思議そうに眺める。

ヴィクトル「君、箸持ってる?」

ガイド「へ? ありやすが……」

ヴィクトルさんに問われて、ガイドさんが迷いもなく箸を差し出す。

その動作があまりにもなめらかで、つい見守ってしまった。

勝生勇利「箸―! 食べられちゃうぅぅ!!!」

勇利さんの悲鳴がこだまする中、ヴィクトルさんは口で割り箸を割った。

(あ……! 止めないと!)

勝生勇利「……いや、待てよ?」

(え?)

勝生勇利「でも、僕がもしヴィクトルに食べられたら……僕はヴィクトルの血となり肉となる。 僕はヴィクトルの一部になるんだ。ずっとヴィクトルを目指してたじゃないか」

〇〇「でもそれじゃあ……!」

ガイド「誰と話してるんです?」

勝生勇利「うん、そうだ。いっそ食べて! 僕をヴィクトルの一部にしてください!」

悲劇的なことが待ち受けていそうで、私は思わず目を覆う。

ヴィクトル「ん? このプニプニの肉の感じ……もしかして、勇利……」

勝生勇利「そうだよ! 僕だよヴィクトル! 気づいてくれたの? プニプニの肉の感じで気づかれるのもショックだけど……。 やっぱり、ヴィクトルには僕がわかるんだね。ずっと一緒に生活してきたんだ。 もう身も心も通じ合う。そんな気がしているよ、ヴィクトル!」

ヴィクトル「勇利のお腹みたいでおいしそう! いただきまーす!」

勝生勇利「……やっぱり駄目だー!」

〇〇「勇利さん……!」

ヴィクトル「勇利?」

ヴィクトルさんの歯がカツを齧った瞬間…-。

ぽんっと音を立てて、勇利さんの姿がカツ丼から人間へと戻った。

ヴィクトル「え? 勇利!? なんでカツ丼なんかになってるの??」

勇利さんのお腹に齧りついたまま、ヴィクトルさんはまばたきを繰り返す。

勝生勇利「僕にもわからないよ……。 もういいから噛まないでよ、ヴィクトル!」

ヴィクトル「やっぱり勇利のお腹はカツ丼みたいでプニプニだ~!」

勝生勇利「ちょっ……ヴィクトル!? 歯形! 歯形ついた!」

ヴィクトル「勇利のお腹は触っても気持ちいいけど、齧ってもいいね!」

(よかった……人の姿に戻った)

二人の賑やかな声に、私はようやく落ち着いて胸を撫で下ろした。

……

勇利さんのが無事に元の姿に戻り、私達は疲れ果てたように食堂になだれ込んだ。

目の前に出されたカツ丼を前に、ヴィクトルさんは待っていたと言わんばかりに食べ始める。

ヴィクトル「んー! フク―スナー!」

喜ぶ声を聞いて、勇利さんが恨みがましくヴィクトルさんを横目で見つめた。

勝生勇利「さっきは僕のお腹食べて喜んでたくせに……」

ヴィクトル「あれ? 勇利もしかして妬いてるの?」

勝生勇利「へ?」

ヴィクトル「カツ丼に嫉妬するなんて、さすが僕の子豚ちゃんだ!」

ヴィクトルさんの手が、勇利さんの頬にそっと添えられる。

妖艶な瞳に、見ている私でさえ頬が熱くなった。

勝生勇利「そうじゃなくて。 見てよこれ! 歯形がくっきりついてる! それも全部の歯が綺麗に! うわー……ヴィクトルって歯形も綺麗なんだねー写真撮っておこ」

勇利さんは携帯を取り出すと、いそいそとヴィクトルさんの歯型を写真に収めた。

(あんなに怒ってたのに、嬉しそうに写真撮れる……)

勇利さんのヴィクトルさん隙を目の当たりにした気がして、思わず吹き出してしまう。

ヴィクトル「ほーら、勇利も熱いうちに食べた方がいいよ~?」

ヴィクトルさんに受け流されて、勇利さんはしぶしぶカツ丼を手に取るけれど…-。

カツ丼を口に入れた瞬間、せきを切ったように食べ始めた。

勝生勇利「やっぱり本物のカツ丼はおいしい……」

ヴィクトル「そうだろう? やっぱり温泉の後はカツ丼だろう?」

勝生勇利「うん! 温泉とカツ丼、それにヴィクトルもいて、これこそ癒しのユートピアだよ!」

話ながらも、勇利さんは嬉しそうにカツ丼を掻き込む。

ヴィクトル「このカツ丼と勇利のお腹と、どっちがプニプニかな?」

勝生勇利「ちょっと、ヴィクトル~?」

(本当に仲が良いな……)

〇〇「さっきガイドさんから聞いたんです。自分の姿が変わってしまったら、好きな人のキスで元に戻るって」

(正確には齧った……なんだけど)

〇〇「勇利さん、本当にヴィクトルさんのこと好きなんですね」

勇利さんは少し照れたようにカツ丼を口に運んだ。

勝生勇利「それは……だってヴィクトルはずーっと昔から僕の憧れだったんだ。 ヴィクトルはいつも僕を驚かせてくれる。今日もね」

話し出したら止まらないのか、勇利さんはヴィクトルさんのことを語り続ける。

その言葉を、ヴィクトルさんはただ静かに優しい笑顔で聞いていた…-。

おわり。

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