太陽7話 危機一髪!箸がない

もうもうと立ち込める湯けむりが一層濃くなり、辺りを白く覆い隠していく…-。

勝生勇利「ヴィクトルー? ヴィクトール!」

勇利さんが心配そうに何度もヴィクトルさんの名前を呼び続ける。

白い湯けむりの中から、ヴィクトルさんが温泉から上がった音が聞こえた。

〇〇「ヴィクトルさん!」

足音が聞こえて、緊張しながら待っていると……

ヴィクトル「あったかい泥の中に入ったみたいだね」

服を着こんだヴィクトルさんが、満足そうな笑みを浮かべて私達の前に現れた。

〇〇「あれ……他人のイメージに……」

勝生勇利「なるんだよね? だって、僕もさっき入ったせいでこんな姿になってるんだよね?」

ヴィクトル「どうしたの?」

呆然とする私を、ヴィクトルさんが不思議そうに覗き込む。

〇〇「その……」

勝生勇利「はぁ……だよね。リビングレジェンドだもんね。ヴィクトルはヴィクトルだよね。 こんなカツ丼みたいなものになるわけないよね……。 うん、そうだ。僕とは違うよ……」

〇〇「勇利さん……」

勇利さんが落ち込んでいるのか、カツ丼のカツがまたわずかにご飯を滑り落ちた。

(この状況に、少しは慣れたけど……でもやっぱりおかしいような)

違和感をぬぐえないまま、私は勇利さんの丼を覗き込む。

〇〇「あの……大丈夫ですか?」

ヴィクトル「おや? おいしそうなカツ丼があるじゃないか。 もしかして、お風呂上りの俺のために用意してくれたんの?」

〇〇「いえ、そうではなくて……このカツ丼は…-」

ヴィクトルさんは私からカツ丼をそっと受け取り、ゆっくりと眺めた。

ヴィクトル「いい匂いだ。ちょうどお腹がすいてたんだ」

勝生勇利「やめて! 食べないで! ヴィクトル! 僕だよ! ねえ、聞こえてるでしょ!?」

ヴィクトルさんの手の中で、勇利さんは必死に訴えるけれど……

ヴィクトル「やっぱり温泉の後は、おいしいカツ丼だよね!」

(もしかして……)

勇利さんも同じことを思ったのか……

勝生勇利「聞こえてない!?」

相当な衝撃だったのか、丼にわずかに亀裂が走った。

(どうして私だけに聞こえてるの?)

(あ……私は勇利さんが変身するところを見ていたから?)

つい考え込んでしまっている間も、勇利さんの危機は続いていた。

勝生勇利「ヴィクトル! ちょっと……離して!」

〇〇「ヴィクトルさん、そのカツ丼を食べるの待ってください!」

ヴィクトル「どうしたの?」

〇〇「そのカツ丼なんですが…-」

ヴィクトル「カツ丼? あ、そうか。箸がないね!」

勝生勇利「そんな問題じゃないよ!」

目まぐるしい変化に頭がついていけなくなっていたその時…-。

ガイド「お嬢ちゃ~ん!」

ガイドさんがこちらへと駆けてくるのが見えた。

今度こそ救いの手だと信じて、私はガイドさんの到着を待ち望んだ…-。

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