太陽最終話 走り出す夢と彼の熱

午前中いっぱい撮影が続き、お昼頃になって、ようやく休憩に入った。

○○「お疲れ様です!」

ジェット「お、おう……」

○○「……?」

カットの掛け声とともにすぐに駆け寄った私から、ジェットさんが目を逸らす。

(どうしたのかな?)

ジェット「……あんま見るなよ」

○○「え?」

ジェット「……だから、恥ずかしいんだよ!目の前で演技見られてるとか、まだ俺自身もアクション俳優としての自分に向き合ったばっかだし」

長い息を吐き出して、ジェットさんが顔に浮かんだ汗を腕で拭う。

だけどその顔にはどこか吹っ切れた様子があった。

○○「かっこよかったですよ」

ジェット「当たり前だろ!次は得意のアクションシーンだし、もっとかっこいいところお前に見せてやるよ」

自信たっぷりに言って、額を指先で小突かれる。

(なんだか恥ずかしいな……)

女性スタッフ「ジェットさん、少しいいですか?」

その時、現場スタッフが台本を片手にこちらへ駆け寄ってきた。

ジェット「どうかしたか?」

女性スタッフ「次のシーンなんですが、ちょっとセットの安全面、見てもらえますか?」

それはどうやら、スタントとして有名な彼を頼ってのことらしい。

女性スタッフの手招きでジェットさんがセットに向かう。

私も自然に、彼の後を追うと…―。

スタッフ「危ないっ!!!」

○○「え!?」

誰かの叫び声が聞こえたかと思うと…―。

(!! 嘘…―っ)

私目掛けて、セットの一部が崩れ落ちてきた。

ジェット「○○っ!!」

○○「……っ!!」

何かが崩れる、けたたましい衝撃音に、私はぎゅっとまぶたを閉じた。

(あれ……?)

けれどいつまで経っても、予想していた衝撃がやってこない。

(一体、何が起こったの……?)

怯えながらも、ゆっくりと目を開けば…―。

スチル

○○「え……ジェットさん!?」

目の前に飛び込んできたのは、ジェットさんの顔だった。

額には汗が滲み、苦しげに歯を食いしばっている。

その背には、崩れ落ちたセットの残骸が重なっていて……

○○「大丈夫ですか!?」

ジェット「馬鹿!心配するのはお前の方だろ、怪我してねーか?」

○○「……っ、はい……」

言われてみれば、身体のどこにも痛みはない。

(ジェットさんが、庇ってくれたから……)

思わず目に熱いものが込み上げてきそうになって……

ジェット「お、おい!やっぱりどこか痛むのか!?」

○○「違います、大丈夫です、本当にありがとうございます」

慌てて首を左右に振ると、彼はほっと安堵に息を吐き出した。

ジェット「俺が目指すのはアクションスターだからな。人に夢を与えるのが仕事のスターが、女一人守れないんじゃカッコつかないだろ?」

ジェットさんが、口元にニッと笑みを浮かべる。

○○「ジェットさん……」

瓦礫が崩れる音がして、彼の腕が私を抱きしめた。

そして……彼の唇が私の額に押し付けられる。

○○「……っ!」

軽く音を立てて、額から離れる彼の唇……

触れられた部分が、熱を帯びる。

○○「い、今の……」

ジェット「ただのキスだろ?絶体絶命のピンチを救ったんだ、これくらいのご褒美があってもいいはずだ。けど現場のスタッフには絶対バラすなよ」

○○「はい……」

小さく頷くけれど、頬がおかしなくらいに熱くなる。

ジェットさんの顔が、真っ直ぐに見られない。

ジェット「ほら、無事なら動けるな」

ジェットさんが、背中に背負った瓦礫をその場に打ち捨てた。

遠くから何かを叫んで近づいてくるスタッフの足音がする。

だけどここが撮影現場なことも、私の頭からはもうすっかり抜け落ちていた。

(ジェットさん……)

その意欲に満ちた駆け出しのアクションスターに……

私の心はすっかり奪われてしまっていたのだった…―。

おわり。

<<太陽7話||太陽SS>>


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