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ジェット「けど、自分の演技が気にくわないからって理由でダブルばっかこなしてんのは……単なる逃げで、ダセーだろ。だからこれからは演技もこなせるアクションスターの道を目指すことに決めた!」
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スタントの仕事を断り、映画の主演オファーを受けた俺は、新しい一歩を踏み出していた。
監督「ジェット、そこはもっと必死な表情で真に迫った演技をしてくれ!」
ジェット「……はいっ!!」
熱い視線を感じてチラリと目を向けると、○○が俺をじっと見つめていた。
その視線に、耳まで熱くなる。
(またあんなにキラキラした目で……)
慌ててかぶりを振り、スタンバイ位置へと踵を返した。
……
○○「お疲れ様です!」
休憩に入ると、すぐに○○が駆け寄って来た。
ジェット「お、おう……あんま見るなよ」
○○「え?」
ジェット「……だから、恥ずかしいんだよ!目の前で演技見られてるとか、まだ俺自身もアクション俳優としての自分に向き合ったばっかだし」
早口で言ってから、慌てて口をつぐむ。
(これじゃ、こいつに当たってるみたいじゃねーか……ただ恥ずかしいだけなのに。何やってんだ俺……ダセーぞ!)
○○「かっこよかったですよ」
(えっ……!やべぇ……スゲー嬉しい……)
○○の言葉が俺の胸をくすぐる。
ジェット「当たり前だろ!次は得意のアクションシーンだし、もっとかっこいいところお前に見せてやるよ」
照れ隠しに○○の顔を指先で小突くと、アイツは恥ずかしそうにうつむいた。
女性スタッフ「ジェットさん、少しいいですか?」
その時、現場スタッフが台本を片手にこちらへ駆け寄って来た。
俺がスタントマンということもあり、セットの強度や組み方について相談されていたスタッフだ。
ジェット「どうかしたか?」
女性スタッフ「次のシーンなんですが、ちょっとセットの安全面、見てもらえますか?」
そういえば、ここの所自分のシーンで頭が一杯で、セットの相談を受けていなかった。
俺は立ち上がり、スタッフが手招きするセットへと近づく。
その時……
スタッフ「危ないっ!!!」
スタッフの声が響き、慌てて後ろを振り返った。
こちらに向かっていた○○の横で、セットが大きく傾いている。
ジェット「○○っ!!」
無我夢中で、彼女の元へ飛び込んでいた。
セットが崩れ落ちる音と共に、背中に強い衝撃が走る。
あまりの重みに押しつぶされそうになりながらも、床についていた腕をぐっと張った。
(○○……)
○○は目をみはり、俺を見上げる。
○○「え……ジェットさん!?大丈夫ですか!?」
ジェット「馬鹿!心配するのはお前の方だろ、怪我してねーか?」
○○「……っ、はい……」
頷いた○○の目には、今にもこぼれ落ちそうな涙が溜まっている。
ジェット「お、おい!やっぱりどこか痛むのか!?」
○○「違います、大丈夫です、本当にありがとうございます」
首を横に振る彼女をじっと見つめる。
顔にも、腕や体にも怪我は見当たらず、ようやく安堵の息が漏れた。
ジェット「俺が目指すのはアクションスターだからな。人に夢を与えるのが仕事のスターが、女一人守れないんじゃカッコつかないだろ?」
背中の瓦礫が俺の背中に食い込み、歪みそうになった顔に無理矢理に笑みを浮かべた。
○○「ジェットさん……」
涙に瞳を潤ませながら微笑む彼女に、胸が高鳴る。
瓦礫の崩れる音が聞こえ、慌てて彼女を抱きしめた。
そして……
怯える彼女の額に、そっとキスを落とす。
唇を離し○○を見つめると、頬を真っ赤に染めていた。
(本当に、可愛いヤツだな……)
○○「い、今の……」
ジェット「ただのキスだろ?」
言いながら、俺の頬も熱くなる。
ジェット「絶体絶命のピンチを救ったんだ、これくらいのご褒美があってもいいはずだ。けど現場のスタッフには絶対バラすなよ」
○○「はい……」
○○が照れくさそうに微笑み、俺達は笑い合った。
瓦礫の外からはスタッフ達の足音と叫び声が聞こえる。
(もう少しこのままでもいいんだけどな……)
彼女の紅潮した顔を見つめた時……
(こいつを守れるような、アクションスターになりたい)
確かな決意が、俺の中に舞い降りた。
(いや、これは今思ったことでもないな……)
元々宿っていた気持ちだということに気づき、今しっかりと胸に刻む。
(こいつが見守ってくれてるんだ……この撮影、絶対に成功させてやる)
その決意を胸に、俺は背中に背負っていた瓦礫をその場に打ち捨てた…―。
おわり。