ソファにゆったりと座りながら、私は本を読んでいたが…―。
イリア「……」
私は、そっと本を閉じる。
本を閉じる音が、部屋に響いた。
(少しも面白くない……)
読書は、私の一番の趣味だった。
しかし、その内容が頭にちっとも入ってこない。
(その理由に、私は気づいている)
(〇〇様と出会ったから……)
(この世には、もっと楽しいことがあると知ってしまった)
無意識に、ため息を吐いてしまう。
イリア「ああっ! またため息を吐いてしまった……」
(あの方のことを考えると、ため息ばかり吐いてしまう……)
その理由も、私はもうわかっていた。
イリア「私は、〇〇様をお慕いしている……」
自分の気持ちを、あえて言葉に出してみる。
すると、すぐに耳がむずがゆくなってくる。
イリア「……っ!」
私の頬も、次第に熱を帯びてくる。
(ああ、やはり私はあの方が好きなのだ……)
本日で、〇〇様は城を出て行かれてしまう。
そう思うだけで、私はいてもたっても居られない気持ちになった。
(やはりこの気持ちを、きちんと伝えなければ……)
私は、ソファから立ち上がり、〇〇様の部屋へと歩みを早めた。
…
……
〇〇様の部屋の前へ行くと、片づけをしている姿を見かける。
(やはり、行かれてしまうのですね……)
私の胸がぎゅっと強く締めつけられる。
(私の傍に、ずっといていただきたい……)
その想いが、私の足を部屋の中へと向かわせた。
イリア「もう帰られてしまうのですね」
〇〇「……イリアさん!」
まとめられた荷物を見て、私の気持ちは固まった…―。
イリア「このまま帰らなければいいのに……」
心の声はそのまま、言葉として紡がれた。
〇〇「え?」
彼女が、目を丸くして私のことを見上げる。
(なんて……愛らしい瞳)
私は自然に、微笑みがこぼれてしまう。
(この瞳と、これからもさまざまなものを見ていきたい)
(願わくば、ずっと一緒に……)
(この気持ちを抑えることなど、もうできはしない)
私は、彼女の前で跪く。
イリア「〇〇様。 どうかこれからも、私の傍にいていただけませんか?」
〇〇「……」
突然の告白に、〇〇様の瞳が揺れる。
そして、しばらく黙り込んでしまった。
(貴方は今、何を考えているのでしょうか?)
(私を、受け入れてくれるのだろうか……?)
(答えを待つのがもどかしい……)
イリア「〇〇様?」
私は耐えられなくなり、〇〇様の名前を呼ぶ。
〇〇「私……イリアさんと見る世界が、大好きみたいです。また、あの丘に行きたいな……」
〇〇様が、私の差し出した手に、そっと自身の手のひらを乗せた。
私の胸に、幸せが満ちていく。
(まさか、私と同じことを思ってくださっているとは……!)
イリア「望むのなら、いつでもお連れしましょう。 貴方が教えてくれた、美しい世界を見に」
私は〇〇様の首に腕を回し、ぐっと引き寄せた。
そして、彼女の唇に口づけを落とした。
(ああ、貴方をこんなにも近くに感じることができるとは……)
イリア「私の、愛しい人……」
心の声が溢れて止まらない。
私は、生まれて初めて味わう甘い幸福感に、酔いしれていたのだった…―。
おわり。