パレードに向け、街全体は夜も色めき立っている……
ペルラ「はぁ……お菓子作りって、大変なんだね……」
宿の厨房を借りてお菓子作りを終えた私達は、部屋へと戻ってきた。
ペルラ「疲れた……」
重そうな体をぐったりとソファに沈めながら、ペルラさんが深いため息を吐く。
彼は丁寧に……心を込めて、お菓子作りをしていた。
(あの面倒くさがりのペルラさんが……)
失礼だとは思いつつも、初めて出会った頃の彼のことを考えると胸がいっぱいになる。
○○「すごく上手にできましたね」
ペルラ「……それは……きみがいたから」
○○「でも、頑張ったのはペルラさんですよ」
ペルラ「……」
ペルラさんは、照れ隠しのようにソファのクッションに顔を埋める。
そして……
ペルラ「こっち」
ぽんぽんとソファを叩いて、ペルラさんが隣へ座るようにと私を促した。
○○「ペルラさん……はい、ありがとうございます」
少し恥ずかしさを感じながら、言われるままに隣へ腰を下ろす。
すると…―。
○○「……!」
ペルラ「……」
突然、ペルラさんが体を倒し、私の膝の上に頭を乗せた。
温かな重みと……それから、さらりとした髪が私の膝をくすぐる。
○○「あ、あの、ペルラさん……?」
速まる鼓動に戸惑いながら、おずおずと名前を呼べば、ペルラさんは幸せそうに頬を緩めた。
ペルラ「なんだか一生分、頑張った感じ。 だから、ちょっとだけ休ませて?」
ペルラさんの声音はいつもよりも甘くかすれていて……
そんなふうに言われれば、何も言えなくなってしまう。
(ペルラさん、すごく頑張ってたもんね……)
口元は幸せそうに緩やかな笑みを描き出し、長いまつ毛に縁取られた目元は、満足そうに細められたまま……
ペルラ「でも……こんなふうに頑張るのも、悪くないね。 そうじゃなきゃ、皆の大変さとか、ちゃんとわからなかったと思うし……。 これからは、もうちょっとしっかりやらなきゃって思ったよ」
彼の澄んだ声が、私の耳に心地よく届けられる。
ペルラ「公務も、それから……恋も」
○○「恋……?」
思わず聞き返してしまうと、ペルラさんがわずかに膝の上で身じろいだ。
ペルラ「うん、きみとの恋。 やっぱり、きみもちゃんとした王子様の方が好きでしょ? だってきみ、ちゃんとやろうとしたぼくのこと、嬉しそうに見ててくれた……。 楽しそうに……嬉しそうに……」
ペルラさんの声が、次第に小さくか細くなっていく。
そして……
ペルラ「……」
(ペルラさん……? 眠っちゃった?)
穏やかな寝息が聞こえてくる。
眠るペルラさんの顔は幾度も見たけれど、今夜ほど幸せそうなのは初めてかもしれない。
ペルラ「ん……○○……」
○○「っ……」
名前を呼ばれ、とくん、と鼓動が跳ねる。
(……ペルラさん……)
不意に込み上げる愛しさを抑えきれずに、柔らかそうな髪にそっと手を伸ばして、起こさないよう優しく撫でた。
(ペルラさんは、いつもマイペースで面倒くさがりで……)
(本当に猫みたいな人で……)
胸の中にほのかに宿っていた気持ちが、確かな熱を持ち始める。
○○「お疲れ様です、ペルラさん……」
背後で、そっと扉の閉まる音が聞こえてきた。
(従者さんかな……)
二人きりの空間に、静かで優しい時間が流れていく。
○○「……」
ペルラさんの頬をそっと撫でてみる。
ペルラ「ん……」
微かにまつ毛が揺れるけれど、ペルラさんは気持ちよさそうにまどろんだまま……
(恋……)
○○「ペルラさんに……恋してますよ」
込み上げる愛おしい感情を言葉に乗せ、私もそっと瞳を閉じる。
収穫祭のパレード当日……猫に扮したペルラさんの、とびきりの笑顔を思い描きながら…―。
おわり。