広々と続く花畑を、橙色の夕陽が染め上げる…-。
おじいさんに連れられて、私達は花誓式が行われるという花畑を訪れていた。
シュニー「えいっ! やあ!」
シュニー君はおじいさんに剣術の手ほどきを受け、真剣に鍛錬を始めた。
(ここに来てから、どれくらい時間が経ったんだろう)
高い場所にあった太陽はいつの間にかほとんど沈み、辺りを橙色に染めている。
(こんなに真剣なシュニー君を見るのって、初めてかも……)
一向に剣を投げ出す様子もなく、シュニー君は懸命に鍛錬を続ける。
おじいさん「まだまだですぞ。騎士は何よりもまず、強くなければ」
シュニー「……もう! わかってるよ!」
むっとして声を上げる元気はありつつも、息は切れ、体も微かにふらついていて……
シュニー君の体力は今にも底を尽きそうだ。
(シュニー君、大丈夫かな……)
〇〇「シュニー君、今日はもう……」
遠慮がちに声をかけるけど、彼はこちらに視線を投げることもなく剣を振り上げる。
シュニー「まだだよ! もう少しやる!」
〇〇「でも、あんまり無理すると…-」
シュニー「大丈夫だから! まだ……格好よくできてないし……!」
〇〇「え……」
シュニー「っ……」
夕焼けに染まった頬が、一段と赤みを増す。
(もしかして、私に見せるために?)
シュニー君の言葉の意味を意識すると、急に胸が熱くなる。
おじいさん「ほっほ、どうやら要らぬ心配だったようですな」
私たちの姿を見て、おじいさんは安堵の声をこぼす。
その顔を見ると、さっきまで瞳にあった厳しさは消え、代わりに穏やかな光が宿っていた。
おじいさん「シュニー様、あなたは騎士に必要な、もっとも大切なものを持っていらっしゃった」
シュニー「え……」
おじいさん「騎士の精神は、人それぞれ……しかし、それ以前に騎士に欠かせないことがあります」
おじいさんの言葉に、シュニー君が目を瞬かせる。
おじいさん「守るべきもののために、自らの身を挺して剣を振るうことができるか……。 言葉でわかっていても、できない者はたくさんいます……。 しかしシュニー様の剣には、一切の迷いがなかった。その心があれば、どこまでも強くなりましょう」
(おじいさんに認められたんだ……!)
私まで嬉しくなって、はっとその顔を見つめる。
だけど、そこにはぽかんと驚いた表情だけが浮かんでいた。
〇〇「……シュニー君、大丈夫?」
シュニー「あ……当たり前だよ! だって僕は、高潔なる雪の一族だからね!」
いつもの威勢を取り戻した姿を見て、私はほっと息を吐く。
おじいさん「ほっほ、では私はそろそろ……」
シュニー「あのさ……ありがとう」
少しだけ照れくさそうに、シュニー君がお礼を言う。
おじいさん「こちらこそ、久しぶりにいい剣を交えられました。 それでは……」
おじいさんは、出会った時よりもさらに清らかな笑みを浮かべて去っていった。
シュニー「疲れた……」
その姿がほとんど見えなくなってから、シュニー君は張り詰めていた緊張が解けたように座り込んだ。
〇〇「お疲れ様でした」
シュニー「本当だよ! ……でもまぁ、やってよかったかもね。たまには体を動かすのも悪くないし」
〇〇「ふふ、また今日みたいに鍛錬をされるシュニー君、私も見たいです」
シュニー「……主人に命令するなんて、いい度胸だね」
〇〇「す、すみません……でも、シュニー君が頑張る姿、これからも応援しますね」
シュニー「そんなの当たり前でしょ。お前はずっと、僕だけを見てること」
シュニー君はそう言うと、私の腕を引いて、自分の隣に座らせる。
そして……
シュニー「それで、僕が疲れたらこうやって休ませて」
肩に頭を乗せ、シュニー君が私を上目に見つめてきた。
甘く揺れる赤い瞳に染められるように、頬が熱を帯びていく…-。
〇〇「……はい」
シュニー「……変なの。〇〇の顔、真っ赤だよ?」
からかうような声色に、胸がドキドキと騒いで落ち着かなくなってしまう。
〇〇「あ、あの……疲れてるなら、もう城に戻りますか?」
誤魔化したくてそう言うけれど、シュニー君はくすりと笑うだけで動かない。
シュニー「駄目」
〇〇「駄目って……」
シュニー「もう少し、ここにいる。 お前とこうしてたい」
(え……)
素直な彼の言葉に、思わず息を呑む。
シュニー「ねえ、僕が強くなったら……ちゃんと褒めてよね」
シュニー君は甘えた声でそうこぼし、私の袖をきゅっと掴んだ。
(シュニー君……)
熱い頬を自覚しながら頷こうとすると、シュニー君が不意に顎を上げて……
〇〇「……っ」
柔らかなキスが唇をかすめて、胸が大きく打ち鳴る。
シュニー「絶対、約束だからね」
悪戯な笑みを唇に乗せたシュニー君に、私は赤い顔で頷くのだった…-。
おわり。