花畑で剣を振るい始めてからしばらく…-。
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おじいさん『しかし先ほどのご様子を見る限り、まだ騎士の精神を語るには及ばぬやもしれませんなぁ』
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にこやかな笑顔で言われた言葉が、もやもやと胸にくすぶる。
(騎士の精神なんて、王子の僕には関係ないことなのに……)
(どうしてこんなに、悔しい気持ちになるんだろう)
おじいさん「おや、もう集中力が切れてしまわれましたか?」
シュニー「っ……そんなわけないだろ! そっちこそ、バテて倒れたりしないでよね」
おじいさんの余裕の笑みに、剣を持つ手に力がこもる。
(こんなとこで、絶対に降参なんかしたくない)
(だって、僕は誇り高きスノウフィリアの王子なんだから)
(それに、今ここには……)
密かに滑らせた視線の先に、〇〇の姿を見つける。
心配そうに眉を寄せる姿に、僕はまた悔しくなって、小さく唇を噛んだ。
(……こんなんじゃ全然駄目だ)
(こんなんじゃ、全然格好よくない!)
シュニー「えいっ! やあ!」
重たい剣を振るうと、体が持っていかれそうになってしまう。
前のめりになる度につま先を踏ん張って、僕は何度も体勢を整えた。
おじいさん「花の騎士は、その剣にすべてを賭けるのです」
(騎士達は、守るべきもののためにすべてを賭けて剣を振るう)
(じゃあ、僕が守るべきものって……?)
そう自分に問いかけた時、胸の奥が燃えるように熱くなるのを感じた。
シュニー「……〇〇」
無意識に自分の口からこぼれた名前に、僕ははっと目を開く。
(最初に頭に浮かぶのは、当然国や兄達のことだと思っていた)
(もちろん僕は王子だし、フロ兄達と一緒にスノウフィリアを守る。だけど……それだけじゃない)
もはや誤魔化すことも否定することもできない、胸を熱くする想い……
(……僕が剣を握るのは、お前を守るため)
(そのために僕は、もっともっと強くなるんだ!)
おじいさん「ほう、その目は…-」
いつの間にか間合いを詰めていたおじいさんが、僕の瞳を覗き込む。
おじいさん「何か、大切なことに気づかれたようですね」
シュニー「……まあね」
(とっくに体は疲れているのに、どんどん熱が生まれてくる……こんな感覚、初めてだ)
(誰かのために自分の限界を超えても戦い続ける……これが騎士の精神なのかも)
熱をすべて発散させるように、僕は剣を振り下ろした…-。
…
……
疲れ果てて座り込んだ僕に、〇〇が駆け寄ってくる。
その顔を見るとほっとして、なぜか鼻の奥がつんとした。
(……もっと強くなったら、僕がお前の元に駆け寄っていって抱きしめてやれるのかな)
そんなことを考えながらも、僕はつい憎まれ口を叩く。
シュニー「……主人に命令するなんて、いい度胸だね」
〇〇「す、すみません……でも、シュニー君が頑張る姿、これからも応援しますね」
シュニー「そんなの当たり前でしょ。お前はずっと、僕だけを見てること」
(そしたら、僕はこれからももっと強くなれるから)
そんな想いを込めて、〇〇の腕を引いて自分の横に座らせる。
〇〇の香りがふわりと近づいて、つい頬が緩んだ。
シュニー「それで、僕が疲れたらこうやって休ませて」
〇〇の肩に頭を乗せ、驚いたように見開かれた瞳を見つめる。
〇〇「……はい」
照れたみたいに視線を泳がせる〇〇に、いたずら心が浮かんできて……
シュニー「……変なの。〇〇の顔、真っ赤だよ?」
〇〇「あ、あの……疲れてるなら、もう城に戻りますか?」
シュニー「駄目」
〇〇「駄目って……」
シュニー「もう少し、ここにいる。 お前とこうしてたい」
上目遣いでそう言えば、〇〇が小さく息を詰める。
それだけでなんだか無性に嬉しくて、心が温かくなった。
(〇〇といると、なんでこんなに落ち着くのかな)
シュニー「ねえ、僕が強くなったら……ちゃんと褒めてよね」
甘えるようにそう言って、僕は顎を上げ……
〇〇「……っ」
軽くキスをすれば、〇〇が目を瞬かせた。
(……かわいいな)
(やっぱり〇〇には、ずっと僕を応援させなくちゃ)
シュニー「絶対、約束だからね」
赤い顔で頷く〇〇に微笑みかけて……
僕はもう一度、彼女の柔らかな唇を甘く奪ってみせたのだった…-。
おわり。