(ほんの気まぐれだったと言ったら、君は怒るだろうか……?)
空が、星を飲みこみ白んでいく…-。
(あぁ、まるで夢の終わりを告げているようだ……)
隠れ家から、わずかな夜間飛行を楽しんで、彼女を送り届ける。
ベランダに降り立ち、彼女を腕の中から手放した。
グウィード「おやすみ……良い夢を、僕の可愛い子猫ちゃん」
冷たい夜気が、腕に残る温もりを奪い去っていく。
グウィード「また、明日の夜に会おう」
〇〇「はい、グウィードさん……」
グウィード「……」
彼女の瞳が、まっすぐに僕を見上げる。
(まるで星のきらめきのようだ)
(そんな瞳で僕を見ないでくれ)
まるで吸い寄せられるように、彼女に顔を近づける。
彼女の吐息が、僕の唇に触れた。
(……いったい、僕は何をやっているんだ)
頭を冷やすように振って、ゆっくりと彼女から離れた。
僕を待つ彼女のまつげが、震えている。
(ごめんね、子猫ちゃん)
音もなくそこから飛び立つと、屋根の上に身を隠した。
(こんなつもりじゃなかった)
(退屈な夜を紛らわすためだけに、気まぐれに君を誘っただけだった)
(なのに……)
こっそりと彼女を上から見つめる。
僕がいないことに気づいて、彼女が辺りを見渡した。
グウィード「そんな所を見ても、僕はいないよ」
僕は彼女に聞こえないように、話しかける。
その声が自然と弾んでいて、自分でも驚いてしまう。
グウィード「早く部屋に入らないと、風邪を引くよ? 子猫ちゃん」
まだ僕を探して、彼女が通りを見つめている。
笑いを押し殺して、そんな彼女を見つめる。
(君と会えば、君を欲してしまう)
(それではいけないと知りながら……)
(もう……ほんのひと時の夢では終われなくなってしまっている)
僕を探すことを諦めたのか、彼女は部屋へと入っていった。
グウィード「おやすみ、子猫ちゃん……」
誰もいなくなったベランダは、まるで花を失ったように寂しく見えた。
(ああ、それはきっと僕の気持ちなんだろうね……)
ベランダから目を離し、白んだ空を見つめる。
グウィード「夢は、夢のままに……」
音を立てないように、僕はそこから飛び立った…-。
薪がはぜて、暖炉の火が揺れた。
僕はハッと意識を戻す。
(もうこんな時間か……)
外から可愛らしい足音が聞こえた。
(来たんだね、子猫ちゃん)
ドアが三回ノックされる。
〇〇「花言葉は……『エレガント』
グウィード「そして『豊かな感受性』、いらっしゃい子猫ちゃん◆」
ドアを開けて、彼女を暖かな室内に招き入れる。
(願わくば、どうかまだ夢を見させてくれ)
(君との、夢を……)
冷たい夜気のせいで、彼女が頬を赤くさせて笑う。
その頬に、僕は優しく手をそえた…-。
おわり。