数日後…一。
街の噂話によると、グレイシア君はまだ城に姿を出さず、街中に留まっているらしい。
(大丈夫かな……)
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グレイシア
「俺はいつだって、フロストの弟、としてしか見られないから」
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(そんなこと……)
街を探しても、グレイシア君の姿は見つからなかった。
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グレイシア
「……嬉しい」
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彼の仕草や、照れた表情が思い起こされる。
(……心配だよ、グレイシア君)
気づくと私は街を出て、外へ彼を探しに出ていた…一。
…
……
(駄目だ、グレイシア君、全然見つからない。どこにいるんだろう?)
(あ……)
一つだけ、心当たりがあった。
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グレイシア
「いい景色だろ? 気に入ってるんだよ、ここ」
グレイシア
「嫌なことがあった時もさ、ここに来ると落ち着く」
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私は彼と一緒スケートをした、あの湖へと向かった…ー。
街から続く一本道をしばらく行くと、どこまでも続く雪原のなかに、ぽつりと湖の姿が現われる。
鏡のように凍りついた湖面の上には…ー。
(グレイシア君…… ! )
彼はあの日と同じように、靴底に氷のブレードをまとい、氷上を大きな動きで滑っていた。
その姿は、相変わらず綺麗で……
だけど、この前見た時よりもずっと静かに見える。
グレイシア
「……!」
そっと、彼のブレードが氷上で止まり、視線がぶつかった。
◯◯「あ、グレイシアく…ー」
視線があったのはほんの一瞬で、私が声をかけると、グレイシア君はそっぽを向いた。
横を向いた頬が淡く朱に染まるのを見て、私の胸も騒ぎ出す。
(グレイシア君……)
目的も忘れて、じっと彼と見つめてしまう。
グレイシア「……何しに来たんだよ」
◯◯「ここなら、会えるんじゃないかと思って」
グレイシア「!」
◯◯「あ……」
思わず出してしまった言葉が恥ずかしくて、口を手で押さえると…ー。
近づいてきた彼に、腕を掴まれた。
◯◯「……っ!」
グレイシア「……こっち、来いよ」
目を合わせることなく、グレイシア君はそっけなく言葉を放つ。
◯◯「は、はい」
湖面に足を踏み出そうとすると、私の足元に、あの時と同じように氷のブレードが出来上がる。
◯◯「ありがとう」
グレイシア「……」
グレイシア君は、微かに微笑むと、私の体をしっかりと支えてくれた。
そして私達は再び、広く白い湖に滑り出した…ー。