グレイシア「……嬉しい」
グレイシア君がそうつぶやいた後、どれくらいの時間見つめ合っていただろう。
◯◯「あ……あの」
思いきって声をかけると、グレイシア君がハッとしたように私から瞳を逸らした。
◯◯「……」
そして、再び訪れたしばらくの沈黙の後…ー。
グレイシア「……街に戻る」
グレイシア君が、くるりと私に背を向けた。
◯◯「……お城に行かなくていいんですか?」
私のその言葉に、グレイシア君はポケットに手を突っ込み、大きなため息を吐く。
グレイシア「どうせ、大した用事で呼ばれてるんじゃないさ。俺が目覚めても、城では持て余すだけだよ」
(グレイシア君……)
グレイシア「じゃあな。足、ちゃんと医者に診せろよ」
私の方を振り返ることなく、グレイシア君は湖岸の方へ滑り出す。
◯◯「……」
私は一人雪原に残され、小さくなっていく彼の背中をじっと見つめていた…ー。
数日後……
街の噂話によると、グレイシア君はまだ城に姿を出さず、街中に留まっているらしい。
(いいのかな……)
心配になり、彼の姿を探すため、私は宿から外へと出かけた。
…
……
(駄目だ、グレイシア君、全然見つからない。どこにいるんだろう?)
(もしかして……)
彼の居場所に、私には一つだけ、心当たりがあった…ー。