森が焼き討ちにあっているとの報告を受け、ゲイリーさんが向かってからしばらくして……
木々の間から、険しい顔をしたゲイリーさんが戻ってきた。
○○「ゲイリーさん!」
すぐさま駆け寄ると、火事のせいか灰をかぶり服はところどころ焼け焦げていた。
ゲイリー「待たせてしまったな」
○○「大丈夫ですか? ゲイリーさん、怪我は?」
ゲイリー「ああ、大丈夫だ。それよりも……焼き討ちの経緯がわかった」
○○「経緯……?」
ゲイリーさんが、忌々しげな顔をして口をゆっくりと開く。
ゲイリー「継母だ。俺の居場所を突き止めて、この森を焼いた」
(継母……ゲイリーさんに呪いをかけた人)
ゲイリー「そのせいで、俺の大事な仲間も一人、命を落として……!!」
○○「そんな……!!」
ゲイリー「だが、継母の居場所も逆にわかった。体勢を立て直し、明日にはそこへ乗り込む」
ゲイリーさんが、きつく拳を握りしめる。
○○「……私も一緒に行きます」
ゲイリー「……危ない目に遭うことになるぞ」
○○「それでも……ここに残って、ゲイリーさんの無事を祈っているだけじゃ嫌なんです」
まっすぐに見つめ合う。
ゲイリーさんの強く鋭い眼差しは、出会った頃と変わりないけれど、今は……
(この人のことを守りたいって思う)
(ゲイリーさんが私を守るって言ってくれたのと同じように)
ゲイリー「……わかった」
ゲイリーさんは、深く頷くと、今夜は早く休むようにと言った。
そして、その日の夜……
ゲイリー「まだ、起きてるか?」
少し離れた場所に横になっていたゲイリーさんが、小さく声をかけた。
○○「はい……なかなか眠れなくて」
返事をすると、少しの間の後、ゲイリーさんが再度話し始める。
ゲイリー「俺が、継母を前にすれば、この呪いはどうなると思う」
○○「え……?」
ゲイリー「この呪いは、憎しみを何倍にも膨らませ、全ての負の感情で満たしてしまうものだ。 だから、あの憎い継母を前にしてしまったら……俺は……」
悲しみと苦しみの入り交じった声に、そっと体を起こそうとした時だった。
○○「え? ゲイリー、さん……?」
いつの間に、傍に来ていたのだろう。
起こしかけた体を、ぐっとベッドに押さえつけられた。
闇の中、黒髪の合間に光る瞳が、じっと私を見下ろしている。
ゲイリー「呪いに飲み込まれ、俺が俺でなくなる前に……。 ……おまえの温かさを感じておきたい」
悲痛な声に、心臓を鷲掴みにされたように胸が苦しくなる。
○○「ゲイリー……さん? っ!?」
彼の手が、私の胸元に伸ばされる。
強引な痛みに顔を歪めたけれど、それでも私は彼をじっと見つめた。
○○「やっ……ゲイリーさん……っ!」
ゲイリーさんが、私の首筋に顔を埋め唇を這わせる。
○○「やめ……!!」
その時、ゲイリーさんの体が小刻みに震えていることに気づいた。
(……怖いんだ)
○○「ゲイリーさん……」
胸にどうしようもない切なさがこみ上げて、彼の名前しか言葉にできない。
それでもそっと、ゲイリーさんの頭を抱きしめると……
ゲイリー「!!」
ゲイリーさんが、ぴたりと動きを止めた。
○○「ゲイリー……さん?」
ゲイリーさんの方が、ひどく傷ついたような顔をして私を見る。
それから、優しく私を抱きしめた。
ゲイリー「すまなかった。○○……どうかしていた。 もう何もしないと約束する……、だから、このままこうして、眠ってもいいか……?」
○○「……はい」
私達はその晩、互いの心と温もりを確かめ合うように、きつく抱き合って眠りに就いたのだった…―。