ゲイリーさんの継母を前にして、彼と継母は睨み合っていた。
ゲイリー「今すぐに俺にかけたこの呪いを解け。 それから、父にかけた呪いもだ。父を操るのはもうやめろ。 このままでは、民が苦しむばかりだ……!!」
ぎらり、と継母の瞳が怪しく光った。
継母「ええ、そうねえ。では、呪いを解いてあげてもよくてよ」
ゲイリー「何……!?」
継母「ええ。あなたが、そこにいる彼女の命を差し出せば、ね」
(え……!?)
ゲイリー「なんだと……? そんなことできるはずが…―」
継母「よおく考えてごらんなさい。彼女の命一つで国が救われるなら、簡単なことだわ。 優しい優しい、ゲイリー王子?」
(ひどい……!)
ゲイリーさんが苦しむ方法を選ぶ彼女に、怒りが込み上げる。
ゲイリーさんを見ると、彼も同じように目をつり上げ、とても険しい顔になりつつあった。
(このままじゃ、また呪いが……)
○○「ゲイリーさん」
ゲイリー「おまえを……許さない。おまえが憎いっ……!!」
継母「っ!?」
○○「ゲイリーさん、駄目っ!」
ゲイリーさんが、怒りを爆発させたかのように、拳を振り上げ壁を力任せに殴る。
激しい音を立てて壁は壊れ、破片が弾け飛んだ。
継母「い、いいの? 私を殺せば、呪いは一生解けないわよ」
ゲイリー「うるさいっ!!」
○○「ゲイリーさんっ!」
継母に向かい、ゲイリーさんが拳を振り上げた瞬間……
私は飛びつくように、彼の体にしがみつき必死で動きを止めた。
○○「駄目!」
ゲイリー「離せ! 俺は、こいつを許せない!!」
○○「駄目です! そんなことしても、誰も救われない……!」
優しさを湛えた薄紫色の瞳を思い浮かべながら、私は必死に言葉を投げかけた。
○○「ちゃんと呪いを解いて、国を救うって……!」
ゲイリー「……」
がくり、とゲイリーさんの体から力が抜ける。
次の瞬間にはゆっくりと……
彼の取り巻く空気が静かになっていった。
ゲイリー「○○……」
○○「ゲイリーさん! よかった……」
継母「……」
継母が、驚いたように目を丸くしている。
○○「ゲイリーさんの呪いを解いてください」
継母に向き直ってそう言うと、彼女は、しばらくして諦めたように深いため息を吐いた。
継母「……呪いを解く力は、もう私には残されていないわ」
○○「そんな……!」
(呪いを解いてもいいって言葉は嘘だったの!?)
継母のその言葉に、怒りで肩を震わせた時……
継母「私の命も残りわずか」
ゲイリー「! どういうことだ……」
継母「呪いをかけ続けるにも、それ相応の力が必要なの。 よかったわね、私はもうじきに死ぬわ。あなたと陛下にかけた呪いの代償に。 けれど……呪いは解けないままよ」
ゲイリー「……」
彼女の口から語られる言葉に、私達は言葉を失った。
すると、継母の金色の瞳が少し遠くを見るように細められた。
継母「……ギルバートは、しっかりやっているかしら?」
ゲイリー「……ああ」
継母「……あの子は、あなたがいる限り国王にはならないのでしょうね」
彼女はぽつりとそうつぶやいて、背を向ける。
ゲイリー「……このまま去る気か?」
本当に彼女に残された命はわずかなようで、もう何もする気はないと告げると、そのまま、奥へと去ってしまった。
(どうしたらいいの……?)
そして、そこからの帰り道……
(結局……呪いを解くことはできなかった)
そう思っていると、ゲイリーさんはふと立ち止まり、改まった様子で私を見つめた。
○○「ゲイリーさん……?」
ゲイリー「……ありがとう。俺を止めてくれて」
○○「いえ。でも結局、呪いは…―」
ゲイリー「いいんだ」
ゲイリーさんが、じっと私を見つめて、頬を優しく手のひらで包み込む。
ゲイリー「○○……一緒に城に戻ってくれるか?」
○○「ゲイリーさん……じゃあ、王子として国へ!?」
その言葉を肯定するかのように、ゲイリーさんの瞳が細められる。
ゲイリー「本当は、俺自身が不安だった。 継母を前にして、呪いに食い尽くされてしまわないか……。 おまえを危険な目に遭わせてしまうと思っていたのに、継母の元へ一人で行くのが不安だった。 ……おまえに何かあったら……と思っていたのに」
ゲイリーさんの本音の言葉が紡がれて、胸がいっぱいになる。
○○「私は……大丈夫です」
ゲイリー「……ありがとう。 おまえがいれば、呪いの負けることはない。 これからも何があるか分からないが、おまえを必ず守り抜く」
○○「ありがとうございます……私は、これからもゲイリーさんの傍にいます」
愛おしい薄紫色の瞳がゆっくりと細められ、綺麗な笑みを作る。
そして静かに優しく、唇が重なり合って…―。
口づけを受けながら、耳の中で響く心臓の音を聴いていた。
(ゲイリーさん……)
やがて腕が離れ、私はそっと彼を見上げる。
今は熱情に染まりつつある彼の瞳をじっと見つめていると…―。
ゲイリー「おまえは、目を開けている方が好みか?」
ゲイリーさんが冗談めかしてそんなことを言った。
○○「っ……ち、違います! ゲイリーさんの目が、綺麗だから見ていたいと思って」
すると、ゲイリーさんの頬がわずかに赤くなった。
ゲイリー「全く、おまえにはかなわないな」
優しい微笑みとは裏腹に、頭の後ろに手を添えられて、今度は半ば荒々しく唇を奪われた。
○○「ん……っ」
彼は私をふわりと抱きとめると、そのままそっと後ろを向かせる。
○○「……?」
振り向こうとすると、彼は私の髪を掻き上げて、首の後ろにキスを落とした。
ゲイリー「……好きだ」
首筋にかかる吐息を感じながら…―。
(ゲイリーさん……私も、こんなに好き)
これからも、この人の傍にずっといたいと、心からそう思った…―。
おわり。