太陽最終話 お芝居じゃない

そして迎えた翌日の本オープンと、CM撮影の日…―。

CMは、映画のシーンに合わせて夜の撮影となった。

(緊張する……)

プロの方にヘアメイクをしてもらうと、鏡の中に映る自分がいつもとはどこか違うように思えた。

鼓動の速まりを感じながら、準備を終えてメリーゴーランドへ向かうと…―。

ジェラルド「○○」

スタッフの方と話していたジェリーがこちらへと歩み寄ってきた。

そのまま、私のことをじっと見つめて……

○○「ジェリー?」

ジェラルド「すごく綺麗です。今日は特別に」

○○「っ……」

真摯に紡がれたその言葉が、お世辞だとは思えなかった。

○○「ありがとうございます……」

頬が熱を持つのを感じ、思わず視線を逸らしてしまう。

ジェラルド「こんなに素敵な姫君に、今日は僕のヒロインになってもらえるなんて。 僕は、本当に幸せ者です」

ごく自然に、ジェリーの手が私の手を取る。

そして、流麗な仕草で腰を下げ、長いまつ毛に縁取られた瞳を伏せたかと思えば……

○○「っ……」

私の手の甲に、ジェリーの柔らかな唇が静かに押し当てられた。

(キス……?)

王子様然としたジェリーに、瞳も心も奪われてしまっていると…―。

スタッフ1「では撮影を始めまーす!」

○○「っ……」

気がつけばすでに、ジェリーの撮影を見ようと人だかりができていた。

ジェラルド「行きましょう、姫」

まだ熱の残る手を引かれ、メリーゴーランドまでエスコートされる。

ジェラルド「皆さん、今日はこの『春風に誘われて』の映画のラストシーンを再現したいと思います! 続編はこのラストシーンの二年後から始まります! どうか、楽しみにしていてください」

よく通るジェリーの声に引き込まれ、一瞬、撮影のことを忘れそうになってしまっていると…―。

○○「っ……!」

さっと、体を力強く抱き寄せられた。

メリーゴーランドの白馬の上に乗せられると、後ろに乗ったジェリーに抱き込むように包みこまれる。

○○「じぇ、ジェリー……っ」

恥ずかしさに、顔を伏せてしまいそうになると…―。

ジェラルド「どうか、いつものような笑みを僕に見せてください。 今日は僕だけの、ヒロインなんですから……」

耳元で囁かれ、そっと手を握られる。

(そうだ、しっかりしないと……)

おずおずと、顔を上げて笑顔を作ると……

ジェラルド「……」

愛おしそうに、じっと私を見つめるジェリーと視線が絡んだ。

息を呑むほど美しく細められた瞳に、吸い込まれそうになる。

(これは……CMのための、演技……?)

そう思うものの、早鐘を打ち始めた鼓動を止めることは、どうしてもできない。

ジェラルド「いつかあなたを……あなたを必ず迎えに行きます。 どんなに遅くなっても、どんなことがあろうとも……。 愛しいあなたを、僕は必ず……迎えに行きますから」

愛しい人を呼ぶようなジェリーの声に、どうしようもなく胸が締めつけられて……

○○「ジェリーは本当にすごいです……こんなにも自然体で演じられるなんて……」

他の人に聞こえないよう、小さな声でそう伝える。

すると、私の手を包むジェリーの指の力がぎゅっと強くなった。

○○「……っ」

驚いて体をびくりと跳ねさせてしまうと、すっと耳元に唇を寄せられて……

ジェラルド「当然です。 だってこれは、お芝居じゃないんですから……」

○○「え……?」

夜のパークのライトに照らされたメリーゴーランドが、優しいメロディを刻みながら静かに動き始める。

(どういうこと……?)

そう問い返そうと思うのに、上手く言葉を紡げずに、ただジェリーを見つめることしかできない。

甘く蕩けるような心地になっていると、ジェリーの吐息混じりの笑い声が耳元で聞こえた。

ジェラルド「ふふ……」

○○「ジェリー……?」

ジェラルド「僕の今のこの笑顔は、あなただけのために……。 あなたが隣にいてくれるからこそのものなんです」

○○「!」

その台詞が、映画のものであるかどうかは知りようがなかった。

けれど、くるくる回るメリーゴーランドがカメラから隠れた時…―。

ジェラルド「僕の……愛しい人」

そっと、こめかみに口づけが落とされる。

この上なく優しいそのキスは、まるで別世界の出来事のように思えたのだった…―。

おわり。

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