沈みゆく太陽が、森の木々を茜色に染める…-。
(そろそろやな……)
セラス「そうや」
今思いついたようなふりをして、オレは話を切り出す。
セラス「疲れてるとこ悪いけど、城に戻る前にもう一つ行きたいところがあるんや。ええか?」
〇〇「行きたいところ? 私は大丈夫ですけど……」
セラス「ほな、ちょっと馬車の手配するから待ってて」
(いざ、決行やな)
オレは、数日前のことを思い出す…-。
〇〇を喜ばせるには何をしたらいいのか、オレはミネルヴァに相談をしていた。
―――――
セラス『なあ、ミネルヴァ。〇〇の笑顔が見たい。 どないしたら、〇〇は喜んでくれるやろか?』
ミネルヴァ『……』
黙ったままこちらを見下ろすミネルヴァに、オレは言葉を続ける。
セラス『それに……この国を守ってくれた感謝の気持ちも伝えたいねん』
ミネルヴァ『……』
セラス『あかんわ~、こう見えてオレ女心わからんし。特に好きな女の心はわからん!』
ミネルヴァ『……』
セラス『なあ、ミネルヴァ。何か答えてくれへん?まあ、女心なんか、お前に聞いてもわからんか』
だんまりを決め込むミネルヴァに、オレは痺れを切らしてツッコミを入れる。
すると……
ミネルヴァ『……女は綺麗なものが好きだ』
セラス『なんや、急に!』
ミネルヴァ『オマエがしゃべっている間、ずっと考えていた』
セラス『お、おお……そうやったんか』
(にしても、綺麗なもんか……)
(国も復興中やしなあ)
不意に、あるものが脳裏をよぎり……
(……この国にあるやないか)
口元が思わず緩む。
(これならきっと、〇〇に感謝の気持ちも伝えられる)
セラス『なあ、ミネルヴァ……』
オレは、ミネルヴァに耳打ちをした…-。
―――――
用意した馬車に乗って、オレは〇〇と雪原にやって来た。
(よし、誰もおらん。予定通りや!)
足跡一つない雪原の上を、オレと〇〇は歩いていく。
セラス「今日は、よく見えそうや」
〇〇「見えそうって?」
星空には既に、オーロラが淡く広がっている。
(ミネルヴァ、今日もええ仕事するな)
セラス「今も充分綺麗やけどな。もっと驚くから」
〇〇が、不思議そうにオレを見上げた。
(おおっ、ええ反応やないか)
素直な反応に、一気に気持ちが上がる。
セラス「ミネルヴァはな、一日に一回空にでっかく電粒を放出しとう。 それが、もうすぐなんや」
〇〇「え?」
セラス「空が一番暗くなる時に、一番綺麗なオーロラが現れるん」
真っ白な雪原で、二人きりでオーロラを見たらどうか……
これが、オレとミネルヴァが考えた〇〇を喜ばす方法やった。
セラス「寒いから、くっついとこ」
〇〇の肩を抱き寄せた後、そっと囁いてみる。
(雪原だと、こうしても許されるし)
そう思いながら、彼女の温もりを感じていたその時…-。
セラス「ほら、空からカーテンが降りてきた。 これを見せたかったんや」
空を見上げると、緑色のオーロラが徐々に色を濃くしていき……
光り輝く星空の中で、オーロラは揺らめきながら、青や紫へと色を変えていく。
(ミネルヴァ、最高やで……)
〇〇「綺麗……」
〇〇が、小さな声でつぶやく。
(作戦、大成功やったわ)
ミネルヴァに心の中でありがとうと言いながら、オレは改めて〇〇に向き直る。
セラス「これを見られるのも、アンタのおかげや」
〇〇「え……?」
セラス「この美しい国を守ってくれて、ありがとうな」
素直な気持ちがするすると口をついて出る。
セラス「なんでやろな。アンタといると、優しい気持ちになる。 言えんかった気持ちも言えるようになった。 そんだけアンタは、オレを変えてくれたんやで?」
〇〇を見つめ、その額にキスを落とす。
〇〇「っ……!」
頬に、まぶたに……次々と、彼女にキスを落としていく。
セラス「不思議やな。ずっとこうしてたいって思ってまう」
離れた距離を詰めるように、オレは〇〇の頭を自分の肩にもたれさせた。
セラス「なあ。この気持ちを、なんて言うんかな?」
(これは、〇〇が答えてや)
セラス「アンタとずっと一緒にいたくなる。そういう気持ち」
(なあ、頼むで……)
〇〇「その気持ちは……」
〇〇がオレに体を預け、そっと囁く。
(ああ、なんやろこの気持ち)
(……こんな感情、初めてやわ)
何よりも欲しかったその言葉は、白い息と共にオーロラが揺らめく夜空へと溶けていき……
セラス「オレも……アンタが好きや」
オレは夜空を見上げながら、今まで胸にしまっていた想いを、そっとつぶやいたのだった…-。
おわり。