太陽最終話 新しい夢を

あれから数日後…-。

クラウンさんの計らいで、チルコ・サーカスはカルナバーラで再び公演をすることになった。

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モルタ『……その答えは、ステージでお見せしましょう』

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はやる気持ちを持て余しながら、私はモルタさんの元へと向かう。

モルタ「……」

公演前だからか、モルタさんの表情は少し硬い。

〇〇「……大丈夫ですか?」

恐る恐る声をかけると、モルタさんの視線が私に留まる。

モルタ「……ええ」

微笑み返してくれるけれど、その笑みも少しぎこちなく見えた。

〇〇「……」

私はモルタさんに歩み寄り、彼の手をぎゅっと握る。

モルタ「! 〇〇さん……?」

〇〇「温めたら、少しは気持ちも落ち着くと思います。 モルタさんの演目が成功しますように……」

願いを込めてモルタさんの手を包み込むと、強張っていた彼の頬が緩んだことがわかった。

モルタ「あなたの手は、いつも……とても温かいですね」

モルタさんは、温もりを求めるように私の手を握り返す。

やがて…-。

モルタ「では、行ってきます……見ていてくださいね」

繋いでいた手が離れ、モルタさんは照明の中へと歩み出す。

〇〇「はい……頑張ってください!」

少しの名残惜しさを感じながらも、それを打ち消すように声を上げる。

モルタ「……」

こちらを振り返ったモルタさんは、優しく微笑むと……

光溢れるステージへと、まっすぐに向かっていった…-。

……

公演が始まり、スポットライトが忙しなく会場を交錯する。

やがてその光が、ブランコを手にしたモルタさんを照らし出した。

(いよいよだ……)

大勢の人が見守る中、モルタさんは練習していた大技を難なく決めていく。

(すごい……!)

高く跳んだ彼が、宙でブランコを見事掴んだ時……ドクンと心臓が鳴った。

彼の演技にも表情にも、今までにない輝きが満ち溢れていた。

(言葉にできない……)

観客達も立ち上がり、惜しみない拍手を送っている。

こうして、公演は大成功で幕を閉じたのだった…-。

……

公演後……まだドキドキする胸を抑えながら、私はモルタさんの元へ駆けた。

〇〇「モルタさん、公演お疲れ様でした!」

モルタ「ありがとうございます」

モルタさんは、何かが吹っ切れたように穏やかに笑う。

〇〇「本当にすごかったです。私、まだ興奮して…-」

モルタ「ええ。私もです。 ……〇〇さん。少し歩きませんか」

頷くと、モルタさんがゆっくりと歩みを進め始める。

私も彼の後について、広いサーカステントを巡った。

(本当に夢みたいだった……)

光り輝く演者、熱狂と興奮に飲み込まれる観客……

溢れんばかりの夢が、確かにそこにあった。

モルタ「〇〇さん」

私の名前を呼んで、モルタさんがゆっくりとこちらを振り返る。

〇〇「……っ」

私に向けられたその表情に、思わず息を呑んだ…-。

モルタ「ブランコから体が離れて……もう一度ブランコを掴んだ時……。 感じたことのないような気持ちが胸を満たしました」

モルタさんが宙でブランコを掴んだ、あの時の高揚が蘇ってくる。

〇〇「はい。楽しくて、綺麗で、ドキドキして……。 言葉では伝えきれない想いが溢れてきて……夢のような時間でした」

モルタ「あなたにそう思っていただけて、私も嬉しいです」

モルタさんは立ち止まると、私の髪にそっと触れる。

モルタ「私達は、同じ気持ちを感じられていたのですね……」

髪を梳かす指先は、とても優しくて…-。

モルタ「……あの時、あの瞬間、私達は同じ夢を見ていたのかもしれません。 いえ、それ以上に……自分の見ていた夢が、あなたを……」

彼の指先が、私の髪から耳、耳から頬へと滑っていく。

モルタ「こんなにも、笑顔にできるのですね」

〇〇「……はい!」

満面の笑みを返すと、モルタさんは困ったように苦笑した。

モルタ「困りましたね。満たされているのに、苦しいなど…-。 やはり私は、矛盾しています」

幸せがにじむその笑顔が、嬉しくてたまらない。

じっと見つめていると……彼の顔が近づき、私の唇にそっと触れるだけの口づけを落とした。

モルタ「〇〇さん…-。 私は、この先……安らかな死を迎えるその時まで、あなたと同じ夢を見ていたい」

〇〇「……!」

(それがモルタさんの、心からの望み……)

彼の言葉が、胸に熱く染み渡っていく。

〇〇「はい。また……とびきりの夢を見せてください」

モルタ「ええ……何度でもお見せしましょう」

この先の約束と、再びのキスを交わす。

彼の胸に手をあてると、確かな鼓動が感じられるのだった…-。

おわり。

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