太陽SS 一瞬の証

サーカステントに集まった観客のざわめきが、今日はひどく耳につく。

〇〇「……大丈夫ですか?」

カルナバーラでの再公演の直前、〇〇さんが心配そうに私の顔を覗き込んだ。

モルタ「……ええ」

笑みを浮かべたけれど、上手くできていないことが自分でもわかる。

(……情けない)

(もう私は逃逃げられないと、覚悟を決めたつもりなのに…-)

―――――

モルタ『私が心から望むことは……。 ……その答えは、ステージでお見せしましょう』

―――――

ああ言ったのは、ステージの上でないと、本当の答えにならないと思ったからだ。

(言葉で取り繕うことは幾らでもできるでしょう)

(あるいはこの仮面の下に、苦悩を押し隠してしまえば……)

けれど、このステージを成功させて初めて、〇〇さんへ自分の心を示せるのだと思った。

だが…-。

(怖い……)

(何も変われなかったらと思うと……恐ろしい)

自分の感情がこんなにも高ぶるのは、いつ以来だろう。

恐れと戸惑いに苛まれていると、そっと温かな感覚が私の手を包み込んだ。

モルタ「! 〇〇さん……?」

〇〇「温めたら、少しは気持ちも落ち着くと思います。 モルタさんの演目が成功しますように……」

彼女は安心させるように微笑むと、私の手を何度もさする。

(〇〇さん……)

―――――

〇〇『私にももっと、モルタさんの抱えるものを背負わせてほしいんです。 それが痛みを伴うものであっても……』

―――――

彼女の温もりとあの時の言葉が、胸に優しい光を灯す。

(あなたは、本当に…-)

自身の奥深くにしまい込んでいた本当の心へ、彼女は手を伸ばしてきた。

それはひどく、残酷なことのように思えたけれど……

(……救われている)

モルタ「あなたの手は、いつも……とても温かいですね」

一人ではもうわからなくなっていたことが、〇〇さんとなら見つけられる気がする。

そのことを願うように、私の彼女の手を握り返した。

(ずっと、こうしていられたら……)

胸に湧いてくる、そんな思いを必死に払う。

(子どものままではいられない……そうですよね)

モルタ「では、行ってきます……見ていてくださいね」

私は心を決めて彼女の手を離し、まぶしいステージへと歩き出した。

〇〇「はい……頑張ってください!」

その言葉に、反射的に振り返ってしまうと……

何よりもまぶしい彼女の笑顔が、私だけに向けられていたのだった…-。

……

公演は順調に進み、いよいよ私の番がやってきた。

モルタ「……」

(練習では、最後の最後にやっとできた技……)

大きく息を吸って、勢いよく空中ブランコを揺らして宙を滑っていく。

勢いをつけてブランコから手を離して、宙で一回転する。

高く高く跳び上がり……再びブランコを掴んだ、その時だった。

(あ…-)

胸に、言いようのない高揚が一気に込み上げてくる。

それは観客の声援と一体となり、ドキドキと私の心臓を鳴らした。

(……できたのですね)

多幸感の中に混じるわずかな痛みが、一歩を踏み出せた証のように思えた。

(これで……)

(これで、私は…-)

台の上に戻り眼下を望むと、観客の笑顔が場内にいっぱいに咲いている。

それは、初演の時には見られなかった光景だった。

(〇〇さんも……笑ってくれているでしょうか)

熱くなるばかりの胸に手を添えながら、彼女のことを想う。

〇〇さんが今どんな顔をしているか、気になって仕方がなかった。

(あなたが受け止めてくれた、私という存在……)

大人と子ども、生と死の狭間で、苦しむふりをして安堵としていたのかもしれない。

〇〇さんは、そんな私を許してはくれなかった。

(大切な……私の、何より大切な人)

心からの望みが、今はっきりと形になる。

(私はあなたに夢を見せたい)

(いえ……一緒に、夢を見ていきたい)

いつか一緒に、穏やかな死を迎えるその日まで……

確かに脈打つ鼓動を感じながら、この会場のどこかにいる彼女に想いを馳せるのだった…-。

おわり。

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