太陽最終話 アリスじゃなくても

整備された道に、賑わう街の人々。

(さっきの森と全然違う……都会だ)

チェシャ猫「こんな不思議じゃない国、アリスが戻って来れないのも無理ないよ……」

チェシャ猫は、尻尾を垂らしてしゅんとする。

(チェシャ猫は、……ずっと寂しかったんだ)

チェシャ猫「この時計を回せば、また不思議の森や草原に帰れるけどさ。 もう、どこにも無いんだね……想い出の場所も、大切な人も。 ぼくは……この国で、この森で……ずっとひとりなんだ」

チェシャ猫は、哀しい表情で瞳を揺らす。

(チェシャ猫……)

〇〇「チェシャ猫…ー」

思わず彼に手を伸ばすと……

伸ばした手を掴まれ、チェシャ猫にぎゅっと抱きしめられた。

チェシャ猫「きみは、ずっとぼくと一緒にいてくれるの?」

チェシャ猫は、不安そうな声でつぶやく。

〇〇「……」

見上げると、今にも泣いてしまいそうなチェシャ猫の顔があって……

(そんな悲しそうな顔、しないで……)

私は彼を勇気づけるように、大きく頷いた。

チェシャ猫「……!!」

チェシャ猫は少しの間、私を強く抱きしめた後……

チェシャ猫「ありがとう……」

再び時計の針をゆっくりと動かした…ー。

辺りが暗くなり始めたと思うと、今度は夜へと時が巻き戻る……

そして……急速に時間の動きが早まって行き…ー。

……

再びようやく、時が落ちつくと……

辺りは白昼の街から、夜の帳下りる森へと変化していた。

夜露に濡れた木の葉が宝石のように輝く、不思議の森……

(最初に来た時よりも……不思議と輝いて見えるのは、気のせい?)

チェシャ猫「あのさ……さっき、言いかけちゃったけど」

チェシャ猫は、私の髪をすくい上げる。

そのまま耳にキスを落とすと……背後からそっと私を抱きしめた。

〇〇「チェシャ……猫?」

チェシャ猫の腕から身じろぎすると……

チェシャ猫「……ダメ」

そう、低い声音で私を封じ込んだ。

(チェシャ猫?)

〇〇「……ど、どうしたの?急に」

耳に口づけをされ……

〇〇「っ……!」

チェシャ猫はゆっくりと甘い息を吐きながら、優しくささやいた。

チェシャ猫「やっぱり、君は……アリスじゃない」

〇〇「……」

チェシャ猫「まぁ……何をやっても記憶は戻らないし、アリスじゃないって言うし……。 そうなんじゃないかなって思ってたけど……諦めたくなくて。 でも何よりも……この反応が、答えだよね?」

チェシャ猫の唇が、私のうなじに触れた。

〇〇「っ……!」

チェシャ猫「フフ……だってアリスはこんな反応しなかったも~ん」

〇〇「……じゃ、じゃあ…なんでこんなことを……っ!」

チェシャ猫「きみが……愛しいからに決まってるでしょ?」

(……愛しい……)

その言葉で、胸の奥が熱くなる…ー。

体中に熱い感覚があふれ、今にも溶けていきそうになる。

〇〇「で、でも、アリスは?あんなに、探してたのに…」

すると、チェシャ猫は私の顔を彼の方に向かせて……

彼の指が私の唇をなぞって、口の中にゆっくりと侵入してくる。

そして鼻先をくすぐる、柔らかい尻尾……

〇〇「っ……!」

チェシャ猫「ぼくにもよくわからないけどさ……。 いつの間にか……きみと不思議の国を冒険していたら……。 アリス以上の大切な何かが心の中に、入り込んで来てたんだ」

(……それって……)

チェシャ猫「ププッ!きみ、ぼくにいいようにされてばかりでさ……たまらなく可笑しかったよ」

〇〇「!もう、チェシャ猫…ー。 ……ぁっ」

今度はもっと深く、彼の指が口に押し入れられる。

(甘い……味がする)

チェシャ猫「〇〇が欲しくてたまらないよ。 もう、〇〇を離したくない……。 〇〇……好きだよ」

〇〇「……っ」

チェシャ猫「……」

チェシャ猫は、そのまま私の唇に優しくキスを落とした。

そのままゆっくりと、木の幹に私の体を縫い付ける。

彼は私の耳元に甘い吐息を吹きかけ、静かにささやく。

チェシャ猫「ようこそ、不思議の国へ。ずっと一緒にいてね?。 愛しいぼくの……〇〇……」

月光を浴びるチェシャ猫の瞳が、妖しく美しく輝く……

その輝きに魅せられて、私は彼に身を委ねることしかできない。

そっと瞳を閉じると、彼の甘い香りとささやきが、私の中に広がっていった…ー。

おわり。

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