太陽SS きみとなら輝く世界

この世界は、すっかり変わってしまった。

そんなこと、ぼくは初めから分かっていたのかもしれない。

ぼくはきっと、気付きたくなかっただけなんだ…―。

チェシャ猫「あ~あ、退屈な世界になっちゃった……。こんな不思議じゃない国、アリスが戻って来れないのも無理ないよ……」

自慢の耳もすっかり垂れてしまっているようで、ぼくは悲しみを隠しきれない。

チェシャ猫「この時計を回せば、また不思議の森や草原に帰れるけどさ。もう、どこにも無いんだね……想い出の場所も、大切な人も」

自暴自棄というのは、こういったとを言うのか、と思う。

せっかく見つけた『アリス』にも、全部の種を明かしてしまった。

チェシャ猫「ぼくは……この国で、この森で……ずっとひとりなんだ」

(もういいや……十分楽しめたし、それにきみは、『アリス』じゃ…―)

その言葉を、口にしようとしたときだった。

○○「チェシャ猫…―」

○○の手が、ぼくにそっと伸ばされた。

(……○○……?)

○○の真っ直ぐな視線がぼくを射抜く。

(きみは……)

戸惑いに、不思議な高揚感に、胸がどきどきと音をたてる。

ぼくへと優しく伸ばされた彼女の手を掴んで、そのまま体を引き寄せ、ぎゅっと抱きしめる。

チェシャ猫「きみは、ずっとぼくと一緒にいてくれるの?」

声が、どうしても震えてしまう。

彼女はそんなぼくを励ますように、大きく頷いてくれた。

チェシャ猫「……!!」

(温かいな……)

その温もりに、ぼくの悲しい気持ちが吸い込まれていくようだった。

(本当は、とっくに気づいていたんだよ。きみが『アリス』じゃないってこと……)

ぼくは○○の華奢な体を、なおも強く抱きしめる。

(きみの中に『アリス』を探していたのは、きみに傍にいてほしかったから。その理由が、ほしかっただけなんだ……)

チェシャ猫「ありがとう……」

ぼくはそっと、時計の針を動かした。

めまぐるしく、目の前の空間が変わっていった――。

……

そうして、数日後…―。

夜の帳が下りた森の中。

今ここには、ぼくと○○の二人しかいない。

チェシャ猫「○○が、大好きだよ」

○○「……っ」

(ぼくってこんなに本音を話すヤツだったっけ……? 『アリス』の時には、こんな気持ちにはならなかった……)

○○を思う気持ちが、口から零れていってしまう。

チェシャ猫「愛しいぼくの……○○」

種明かしをしたあの日から、ぼくは繰り返し○○への想いを言葉にする。

(今日は……いつもより、なんだかどきどきする。なんでだろう。ああ、どうしよう……ぼくはもう自分を止められる自信がない)

その時――

ウサギ「大変だ! 急いで探さないとっ!」

少し離れた場所からウサギくんの声が聞こえてきた。

○○「時計がなくて、困っているみたいだね……」

○○がウサギくんのことを心配している。

(ちぇっ、いいところだったのに……)

チェシャ猫「あ~あ、そろそろ返してあげるかにゃ」

○○「うん、そうだね!」

ぼくがそう言うと、○○の表情がぱっと晴れる。

その表情を見ると、少しだけ意地悪をしたくなってしまう。

チェシャ猫「やっぱりやめたにゃ~!」

○○「えっ……でも……返してあげないと、可哀相だと思うよ……」

(うんうん、そういう顔すると思った)

○○「返してあげたほうが、いいと思うけどなあ……」

○○は、ウサギくんに時計を返した方がいいと、ぼくを一生懸命に説得しはじめた。

(うんうん、○○はそう言うと思った)

思った通りの反応をくれて、ぼくは満足していた。

(けど……なんかもうちょっと……)

チェシャ猫「……!」

(そうだ! いいこと思いついたにゃ~)

チェシャ猫「分かった。ちゃんと返すよ」

○○「チェシャ猫……」

チェシャ猫「その代わり、○○がぼくにキスしてくれたらね♪」

○○「えっ……!」

○○は戸惑いながら、そっとぼくの頬にキスをした。

チェシャ猫「え~、場所がちがう~」

ぼくは口をとがらせて、○○にキスをせがむ。

○○「えっ、チェシャ猫……!?」

○○の頬は、ますます赤くなってしまった。

(そんなに恥ずかしがることないのに……ほんと、かわいいな)

我慢できずに、ぼくは自分から彼女の唇を奪った。

○○「……!!」

チェシャ猫「さて、返すかにゃ♪」

(この時計は、もう必要ないだろうし……だって、この世界はきっと楽しいに決まってる。ぼくの側には、○○がいるから♪)

退屈な世界が、○○とならきっとキラキラと輝いて見える……そんな幸せな予感を、ぼくは抱いた…―。

おわり。

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