そして、とうとう当日…-。
余興を行うパーティ会場は、観客で埋め尽くされていた。
クラウン「〇〇、いよいよだね」
〇〇「はい……こんなにたくさんの人が見に来るなんて」
クラウン「緊張しているかい?」
〇〇「は、はい……ものすごく」
震える私の両手を、クラウンさんが優しく握りしめてくれる。
クラウン「大丈夫、私がずっと傍にいるから、安心して」
〇〇「クラウンさん……」
穏やかに微笑むクラウンさんを見ていると、気持ちが安らいでいく。
そうしているうちに、会場の電気が消え、ついにステージに立つ時がきた。
クラウン「さあ、ステージへ」
〇〇「は、はい……!」
大きく鳴り響く心臓の鼓動……
私は深呼吸をしながら、ステージの中央に用意されている椅子に座った。
(緊張で、足が震える……!)
目を閉じて背もたれに体を預けると、耳元でクラウンさんの声が聞こえてきた。
クラウン「大丈夫……さあ、いくよ」
幕が上がり、会場から大きな歓声と拍手が沸き起こる。
(すごい歓声……目を閉じているけど、お客さんの熱気が伝わってくる)
そして少し切なげな音楽と共に、クラウンさんがステージへとやってきた。
クラウン「ああ、愛しい私の人形よ……どうか私の想いを受け入れて欲しい!」
クラウンさんのパフォーマンスが始まると、会場はさらに大きな拍手と歓声に包まれる。
(すごい……盛り上がってる!)
その時、曲調が変わって…-。
(あ……もうすぐだ)
クラウンさんとのダンスの時が近づいて、鼓動がさらに激しく鳴り響き始めた。
その時…-。
クラウン「大丈夫……愛しい私の…―」
(クラウンさん……?)
囁くようなクラウンさんの声が、私の耳に届いた。
クラウン「さあ、私の合図で目を開けて」
その声が、不思議なほど私の気持ちを落ち着かせてくれる。
大きく息を吸うと、クラウンさんの声が会場に響く。
クラウン「世界一のウェディングドールの完成だ!」
クラウンさんに手を引かれ、私は椅子から立ち上がった。
そして、ダンスが始まり……
クラウンさんの手が私の腰に添えられ、くるりとターンをする。
(すごい、クラウンさんのリードのおかげで、うまく体が動いてる……)
音楽に合わせて私達がダンスを披露すると、観客からわっと歓声が起こる。
(よかった……お客さん、楽しんでくれてるみたい)
心の中で、安堵のため息を吐いた時…-。
〇〇「……!!」
ふわりと体が浮かび、見ると、クラウンさんに抱き上げられていることに気づく。
クラウン「ああ、私はなんて幸せなんだろう……こうして貴女と踊ることができるなんて。 美しい私の最高傑作……貴女の永遠の幸せを希う!」
私を抱く腕に力を込めて、クラウンさんが高らかに声を発する。
〇〇「……っ」
クラウンさんとの顔の距離が近くて、ドキリと心臓が跳ね上がった。
クラウン「この衣装を貴女がまとった時から……私は一つ、願いを秘めた」
〇〇「え?」
(こんな台詞……なかったよね)
クラウン「貴方をウェディングドールではなくて、花嫁にしたい」
(花……嫁って)
耳元で聞こえるその言葉が胸に響いて、頬が急に熱を持っていく。
そんな私を見て、クラウンさんはくすりと悪戯っぽい笑みを浮かべた。
クラウン「でもこの話は筋書き……人形師とウェディングドールは、最後結ばれるんだ」
そっと、まぶたにクラウンさんの唇が落ちてくる。
〇〇「……っ」
クラウンさんは私を抱いたまま、軽やかにステップを踏み続ける。
クラウン「花嫁の貴女と結ばれるのは……この演目が終わってからだね。 早く二人きりになりた」
(クラウン……さん)
クラウンさんの言葉に、胸に確かな幸せが溢れてくる。
視線を絡ませ合って、私達はお互いに微笑み合った。
そして…―。
観客1「かわいらしいウェディングドールね!」
観客2「素晴らしかったわ!」
音楽が終わり、会場中から聞こえる歓声に、ほっと胸を撫で下ろす。
(よかった……本当によかった)
胸に熱いものが込み上げてきて、ふと隣にいるクラウンさんに目を向けると、クラウンさんも優しい眼差しで私を見つめていた。
観客3「ブラボー!!」
彼としっかり手を繋ぎ、観客に向かってお辞儀をする。
割れんばかりの拍手に包まれ、やがてステージの幕が降りた時……
クラウン「さあ……物語の続きを」
首元を引き寄せられ、クラウンさんに唇を奪われた。
クラウン「愛しい私の〇〇……どうか、私の想いを受け入れて欲しい。 永遠に、私の傍に」
〇〇「……はい、クラウンさん」
ぎゅっと彼の腕を握りしめる。
もう一度、柔らかなキスが唇に落とされて……
これから紡いでいく彼との幸せな物語を思い描きながら、私はそっと瞳を閉じた…-。
おわり。