私を想ってリカさんが作ってくれた、美しい薔薇のチョコレート…-。
胸がいっぱいで言葉が詰まった私に、リカさんがおもむろに口を開いた。
リカ「お前が好きそうなやつ……とかは、いくらでも出てきたんだけど。 お前をイメージしてってなると……案外難しくて」
ゆっくりと紡がれる言葉に耳を傾けるように、顔を上げる。
すると、リカさんは穏やかな表情で私を見つめた。
リカ「薔薇の花って、象徴に使われることが多いだろ。だからお前にぴったりだと思ったんだ。 〇〇は、この世界にとって希望の象徴だなって思って」
〇〇「そんな……まだ私はそこまで…-」
リカ「言うと思った」
(せっかく褒めてくれてるのに、失礼だったかな。だけど……)
不安な気持ちで、リカさんの瞳を見つめる。
すると……リカさんは表情を引きしめ、私をまっすぐに見つめた。
リカ「……俺は、お前をちゃんと見てるから」
〇〇「リカさん……?」
芯の通った声に、心が大きく揺さぶられる。
リカ「お前が頑張ってるのを、王子としても、一人の男としても、ちゃんと見てるから。 そういう俺の気持ちも、全部これに込めた」
〇〇「……っ」
リカさんの言葉が本当に嬉しくて……彼の想いを受け止めるように、目を閉じた。
〇〇「ありがとうございます……リカさん」
ゆっくりと目を開いて、私もまっすぐに大好きな蜂蜜色の瞳を見つめる。
〇〇「ずっと、私のこと見ててくれて……。 これからも、頑張りますね」
心の中に溢れる彼への想いに、胸が弾む。
リカさんは満足した様子で目を細めると、私の頬に優しく触れた。
リカ「じゃあ、姫君。食べていただけますか?」
〇〇「え?」
いたずらっぽく微笑みかけられて、心臓が早鐘を打ち始める。
リカ「どうぞ、召し上がれ」
〇〇「……はい」
少し緊張しながらも、私は繊細な作りのチョコレートをそっと摘んだ。
(そんなに見つめられると……ドキドキする)
それでもなんとか、チョコレートを口に含むと……
(おいしい……!)
口の中に広がる、柔らかな甘さと華やかな香りに、とろけそうな気分になる。
すると、リカさんが小さな笑い声をこぼした。
リカ「その顔、好き」
〇〇「顔……?」
リカ「皆がさ、チョコレートを食べた後……笑顔になる瞬間の表情が好き。 ほころぶ? みたいな」
〇〇「リカさん……」
そう話すリカさんの表情も、とても幸せそうな、柔らかなものだった。
(リカさんの今の顔も……すごく好き)
リカ「チョコレートって、たった一口でこんなに人を幸せな気持ちにできるんだぜ? すごくない?」
〇〇「ふふ、知ってます。だって、今すごく幸せな気持ちだから……」
リカ「だよな。その顔が好きなんだ。 これから、もっとたくさんの人にこの幸せを知ってもらいたい……」
自分の想いを伝えるように、彼は私の頭をそっと胸に抱き寄せた。
その瞬間、リカさんからふわりと甘い香りが漂う。
(優しい香り……)
何度も感じたこの香りが、触れ合う度にまた愛おしさを募らせていく…-。
〇〇「これからもたくさんの国に、チョコレートを届けないと、ですね」
リカ「でも、お前寂しくない? 俺が飛び回って」
〇〇「私は大丈夫ですよ」
リカ「随分はっきり言うんだな。 あれか……その場合、俺が寂しい思いすんのか? それ」
拗ねたような彼の表情に、思わず笑みをこぼしてしまう。
〇〇「リカさんが行かないなら、私が行っちゃいますから」
リカ「お前が?」
首を傾げるリカさんに、私は言葉を続けた。
〇〇「はい。ショコルーテのチョコレートを食べて幸せになってもらいたいのは、私も同じです。 リカさんの願いは、今の私にとっての願いでもあります。だから……。 リカさんが行かないなら、私が世界中にショコルーテのチョコを広めに行きますからね」
私の言葉に、リカさんは一瞬目を丸くして……
それからふっと、楽しげに笑みをこぼした。
リカ「おいおい、俺の仕事を取るなよ。 ったく……」
困ったように笑った後、彼は私の頬にそっと手をあて……優しいキスを落とした。
(なんだか、なだめられてるみたい……)
〇〇「今のは……」
リカ「ん?」
〇〇「お願いのキス、ですか?」
尋ねると、リカさんはおかしそうに肩を揺らして……
リカ「そういうことにしとくか。じゃあ次のは……なんのキスだと思う?」
〇〇「んっ……」
私に答える間を与えず、再び唇に口づけた。
今度のキスは熱く、徐々に深くなっていく…-。
(リカさんが大好き……)
何もかもを溶かすような情熱的なキスは、チョコのように甘く少しほろ苦い……
チョコレートの香りに包まれながら、私達はお互いへの想いをキスに込めたのだった…―。
おわり。