見上げると、明るい空がだんだんと夜へ移る気配を帯び始めていた。
アヴィ「あーもー、うるせえな。からかうんじゃねえよ」
戻ってきた俺達を、兵士達がこぞって冷やかしてくるが……
俺は、〇〇の手を離さなかった。
(浮かれてんのかもな。見せつけたかったつーか……)
アヴィ「ほら、解散だ。後は各自、はめ外さない程度に楽しんでこい」
軽く追い払って、俺は〇〇の手を引いて歩き出す。
行くところは決まってないけど、それでもよかった。
(二人で行けるんなら、どこだって)
アヴィ「なあ、どこに行きたい?」
〇〇「え?」
唐突すぎた質問に、〇〇がまばたきを繰り返す。
(あ……急すぎたか?)
このまま離れるのが嫌で、つい言葉が漏れていた。
俺は一つ、小さく咳払いして…-。
アヴィ「まだ時間あるだろ? 今だったら、飛行船に乗ってどこにだって行けるぞ」
〇〇「アヴィ……」
〇〇が笑顔を浮かべる。
その表情を見たら、答えなんてすぐにわかった。
アヴィ「決まりだな。とりあえず、船まで急ぐか」
〇〇「わっ……!」
急ぐことを理由にして、俺は〇〇を抱き上げた。
アヴィ「掴まってろよ」
真っ赤になった顔に笑いかけて、俺は早足で歩き出す。
(本音を言えば……こうやってもう一度、お前を抱き上げたかっただけかもしれねえな)
(あの時みたいに、俺の大切なものだって感じたかったんだ)
そう、あの時…-。
抱き上げた腕の中で、〇〇の頬が赤く染まっていく。
アヴィ『お前、ほんとに強くなったよな。俺も、もっと強くならねえと』
〇〇『アヴィは、もう充分強いと思うけど……』
(お前が、ただ守られるだけの姫だったら……な)
(けど、違うだろ?)
〇〇『私は、アヴィと並んで歩きたい。同じくらい強くなりたい』
〇〇らしい言葉に、俺は内心ため息を漏らす。
それは決して、がっかりしたとかじゃなくて……
(やっぱり……〇〇だから、俺は好きになったんだ)
アヴィ『そういうお前だからこそだよ』
〇〇『え……?』
アヴィ『世界で一番すげえ姫様を守るにはさ。やっぱ俺も世界で一番強くならねえと』
〇〇『それじゃあ……結局追いつけないよ』
眉を寄せる〇〇の顔がおかしくて、思わず笑ってしまう。
(なんて顔してんだよ)
(ったく、せっかくの告白が台無しだ。けど……)
アヴィ『そういうところがお前らしいな』
〇〇『え……?』
(守られるだけじゃない。お前はこの世界を守るために、必死に自分で立とうとする)
アヴィ『お前は充分強いよ。ずっと言ってるだろ?』
名残惜しい気持ちを払い、〇〇を下ろす。
〇〇の頭を引き寄せ、俺は心からの想いを告げた。
頑固なこいつに、全部伝わるように…-。
アヴィ『今、改めて誓わせてくれ。 誰よりも強くなって、そしてお前を守ってみせる。 王子として騎士として、お前が望む道を切り開いてやる』
(お前の隣に立つのは俺だ。それだけは、誰にも譲れない)
〇〇『そんなの……私、何もしていないことになるよ。私もアヴィが笑っていられるように頑張るから』
アヴィ『いいんだよ。お前はそれで。お前そのものが、俺にとっての光なんだから』
俺の頬に彼女の手が触れ、なんかたまらなくなって……口の端にそっとキスをした。
アヴィ『けど、そうだな……なら、照らし続けてくれよ。俺のこと。 俺の大好きな、その太陽みたいな笑顔でさ』
かけがえのない俺の光に、口づけを落とす。
やがて、たがが外れたみたいに俺は〇〇を求めていたのだった…-。
…
……
月夜に照らされて、花々が風に揺れる…-。
アヴィ「せっかくだから、遊園地があるとこにでも行ってみればよかったか?」
〇〇「ううん、ここでいいよ。だって、すごく綺麗だから」
アヴィ「そうか……」
気づけば、花を眺める〇〇に見とれていた。
(お前の方が綺麗だ……なんて、つい言っちまいそうで恥ずかしいな)
アヴィ「ほら」
編んだ花の冠を、〇〇の頭にそっとのせた。
アヴィ「器用じゃねえけど、これだけは作れるんだ。昔からさ」
〇〇「ありがとう……」
嬉しそうに、けどどこか切なそうに……〇〇がそっと花冠に触れる。
アヴィ「ははっ……そうしてると、花嫁みたいだな」
〇〇「え?」
アヴィ「あ…-」
思わず漏れた言葉に、俺は慌てて手で口を覆った。
(何、口走ってんだよ……)
〇〇「アヴィ、今……」
アヴィ「いや……」
〇〇の顔がみるみるうちに赤くなっていく。
(やばい、浮かれてるな。俺……)
風が、俺を笑うみたいに吹き抜けていった。
(けど、いつかそうなれたら)
アヴィ「それは、またいつか改めて伝える。そん時は、逃げんじゃねえぞ?」
引き寄せて額を重ねると、〇〇の揺れる瞳がよく見えた。
〇〇「うん……」
(俺の大切な光……)
(ずっと、お前の傍に……)
想いを込めて、俺は〇〇に口づける。
花の香りが、触れ合う俺達を包んでいた…-。
おわり。