夜会の賑わいは、どこか浮き足立ったような空気を含んでいる。
お腹が空いたというアザリーさんの為に、私は果物を取りに行っていた。
〇〇「アザリー、どうぞ」
座り込んでしまった彼に、私は果物の載ったお皿を差し出す。
そこには、当然のようにカリムさんがいて、アザリーさんの為にふわふわの席をしつらえていた。
アザリー「悪いな」
そう言いながらも、アザリーさんは一向にお皿を受け取ろうとしない。
〇〇「……? あの……」
首を傾げると、カリムさんが私に耳打ちをした。
カリム「アザリー様は、果物の皮を剥かれたことがございません」
〇〇「え」
(剥いてってことだったのか……)
桃のように甘い香りを放つ果物の皮を剥き、アザリーさんに差し出す。
アザリー「?」
アザリーさんは尚もそれを受け取らず、私の瞳を見つめた。
アザリー「アザリー様は、手がベタベタするのがお嫌いです」
(私が食べさせるってこと……?)
(あ、でも、フォークをもらってくれば…-)
思い立って席を立とうとする。
すると、アザリーさんは私の手をそっと掴み、果実を口にした。
〇〇「……っ!」
アザリー「……甘い、美味いな。 それに、喉が渇いていたせいかはわからないが……いつもより特別に感じる。 生き返った」
アザリーさんが、本当に嬉しそうに笑う。
その笑顔を見た瞬間、掴まれた手首がじんわりと熱を持ち始めた…-。