夜会の会場は、ティアラの行方を見守る出席者達の熱気に包まれている…-。
僕も〇〇と共に、その熱気の一部となっていた。
主催者「皆様、本日はお集まりいただきありがとうございます」
ステージの上で進行を務める主催者の傍には、美しいティアラが飾られている。
(ふむ……確かに美しいな)
幻想的に輝くティアラに、その場にいる人々は皆、魅了されているようだった。
アザリー「あのティアラ、君によく似合うだろうな」
そう言って、〇〇に視線を向ける。
すると、彼女はうっとりした様子で煌めくティアラを見つめていた。
(知らなかった。君は、そんな表情も見せるんだな)
そのかわいらしい姿を、微笑ましく思いながら見つめる。
(だけど、大丈夫だ)
(会場内の誰よりも魅力的で、美しい女性……)
(5分後には、ティアラは君の頭上で輝いていることだろう)
その姿を思い浮かべるだけで、誇らしい気持ちでいっぱいになる。
そして、ついに…-。
主催者「……それでは、ティアラをお譲りする方の名前を発表させていただきます。 このティアラは……」
(〇〇、おめでとう…-)
主催者「街でご主人とパン屋を営むセレナさんにお贈りしたいと思います!」
(…………何!?)
アザリー「まさか!」
セレナ「えっ!?」
僕とほぼ同時に、一人の女性が声を上げる。
声のした方を見ると、そこには先ほど足蹴にされていたカップルの姿があった。
―――――
アザリー『怪我はないか?』
セレナ『あっ……は、はい。ありがとうございます』
―――――
(……うむ。確かにセレナは、慎ましく美しい女性だ)
(だが……)
隣に立つ〇〇をちらりと見やると、彼女は嬉しそうに微笑んで、ステージへと向かうセレナに拍手を送っている。
アザリー「やはり、これは手違いだな」
〇〇「……? アザリーさん?」
彼女が、きょとんとした顔で僕を見る。
アザリー「確かにあの女性は素晴らしい手を持つ上に、慎ましい。文句のつけようもないだろう。 しかし……それは今日ここに君がいなければ、の話だ。 あのティアラは君にこそふさわしい。だから、取り返してくる!」
〇〇「え!?」
アザリー「心配しなくていい。すぐに戻ってくる」
僕はそう言うなり、ステージへと向かう。
しかし……
〇〇「ま、待ってください。私は今日、パーティに参加できただけで嬉しいですし……。 それに、セレナさんが選ばれて本当によかったって思ってますから……!」
(何……?)
僕の上着の裾を掴む彼女が、清々しい顔でこちらを見つめる。
それは、嘘も偽りもないまっすぐな瞳で…-。
アザリー「……やっぱり」
〇〇「え?」
アザリー「やっぱり君が一番の花だな」
(この会場に咲く、何よりも美しい花……)
僕は彼女の前に跪いた後、柔らかな手の甲にキスを落とす。
〇〇「……っ」
アザリー「甘い香りがするし……。 何より、心に美しい花が咲いている」
(そんな君にこそ、あのティアラはふさわしいのに……)
〇〇「アザリーさん……?」
伏せていた目を再び〇〇の方へと向けると、そこには心配そうに僕を見つめる彼女の姿があった。
(……決めた)
アザリー「今度、君に綺麗なティアラを贈るよ。 僕にはやっぱり、君が一番の花に見えるから」
(これからは、その花を僕が……)
(ずっとずっと、僕が〇〇を守っていこう)
(愛しい僕の、〇〇姫……)
密やかな決意を胸に、僕は再び彼女の手にキスを落とす。
甘く柔らかな、ときめきを感じながら…-。
おわり。