観衆に一礼し、もう一度馬車へ向かおうとした時……
サイ「○○姫、お手をどうぞ」
○○「ありがとうございます」
私をさり気なくエスコートする、サイさんの姿を見た民衆の中から……
沿道の民「そう言えば……昨日、サイ王子と○○姫が花畑で一緒にいたぞ。 仲睦まじいご様子だったなぁ」
(え……?)
沿道の民「確かに、パレードの準備中も、お二人はずっと一緒だったわ」
私達について、口々に噂する声が漏れ聞こえた。
(皆さん、パレードより私達のことを気にし始めて……)
皆の声が広がるにつれて、にわかに焦りが胸に広がる。
サイ「……」
すると……
(えっ……)
突然、体がふわりと宙に浮きあがり……
気づけば、サイさんに抱き上げられていた。
○○「あ、あのっ……?」
思わぬサイさんの行動に、観衆は大きくどよめいた。
サイ「……」
サイさんは何も言わず、そのまま馬車へと戻って行く。
○○「サイさん……?」
(どうして、突然こんな……)
サイさんは真摯な表情で、まっすぐに前を見据えている。
私達は観衆の視線を一身に浴びながら、サイさんの腕に抱かれ、再び馬車に乗り込んだ。
サイ「……」
サイさんは馬車の上で、観衆が静まるのを待っていた。
(サイさんは、何をするつもりなんだろう……?)
やがて、観衆のざわめきが収まった頃…―。
抱き上げられた私は、サイさんの胸元に頬を寄せる形になったまま……
私が挿した白い花が、鼻先でふわりと甘く香る。
サイ「自分でも驚いてる……」
観衆に視線を向けたまま、サイさんが落ち着いた声でつぶやく。
サイ「この僕に、人前でこんな大胆なことができるなんて……」
(サイさん……)
サイ「君が力をくれたおかげだ。 ……ありがとう」
そう言って、サイさんは私の頬に柔らかく唇を寄せた。
(あっ……!)
沿道の民「きゃー! おおっー!」
観衆の大歓声にまぎれて、心臓が壊れそうなほど激しく高鳴る。
○○「サイさん……!?」
キスされた頬を押さえ、驚きに目を見開くと……
サイさんはどこか、ほんの少し意地悪そうに薄く目を細める。
サイ「これで皆も、君が僕の特別な人だとわかっただろう?」
(それを知らせるために、わざと皆さんの前で……?)
サイ「そういう君も……ちゃんとわかってるよね?」
(それって……)
戸惑う私を見つめ、サイさんがふっと笑みを深める。
サイ「もう一度、教えてあげなきゃ駄目?」
サイさんはくすりと肩を揺らした後、もう一度私の額に口づけた。
(サイさん……)
サイ「僕はもう逃げない。 民の思いを受け止め、サフィニアの国を治めよう」
サイさんの誓いを聞き、ぐっと胸が詰まる。
(そんなサイさんを、ずっと見つめていたい……)
サイさんの蒼い瞳を見つめ、私は思い切って口を開く。
○○「これからは、私もサイさんの傍にいていいですか……?」
すると……
サイ「もちろん。今さら、君を手離すと思った?」
サイさんの蒼い瞳が、柔らかな弧を描く。
サイ「こんな言葉、初めて口にするけど……。 僕には……どうしても君が必要みたいだ」
(サイさん……)
サイさんの腕に抱かれ、私は心からの笑顔を返す。
沿道の民「サイ様、○○姫、お幸せに~!」
観衆が投げた花びらが、私達の上にひらひらと降り注ぐ。
(夢みたいに、綺麗な景色……)
歓声に包まれながら、私達は祝福のフラワーシャワーを浴び続けた…―。
おわり。