太陽最終話 控えめな僕の花

アマノさんが遠征に行って、長い時間が経った…ー。

(アマノさん……)

私は彼の帰りを待って……彼との約束を果たしたくて、アカグラの城へと留まり続けていた。

けれど…ー。

手持ち無沙汰に膝の上で開いていた本に視線を移す。

本には最後の夜にアマノさんからもらった藤の花が、栞代わりの押花となって挟まれていた。

(花はもうすっかり枯れてしまったのに……)

庭に咲く藤も見頃を終え、青々とした新緑を芽吹かせている。

(アマノさん……どうか早く、無事に帰ってきて)

祈るような気持ちで再び空を見上げた時だった。

○○「!?」

城の外から微かな歓声が聞こえてきた。

(今のは…ー)

気づけば私は、部屋を飛び出していた…ー。

いろいろな思いで詰まる胸を押さえながら、回廊を駆ける。

(アマノさん……!)

逸る気持ちのまま向かう間にも、聞こえてくる歓声は徐々に大きくなっていく。

中庭に続く回廊の角を曲がった時だった。

アマノ「!」

○○「……っ、アマノさん!」

アマノ「○○!」

会いたかった人の姿を見て、目頭が熱くなる。

アマノ「すみません……随分と待たせてしまいました」

変わらない彼の穏やかな微笑みに、気持ちがとめどなく溢れ出して……

○○「……っ」

周りに人がいることも忘れ駆け寄ると、彼の腕が私の体を深く包み込んだ。

少しだけほこりっぽい匂いすら、愛しいと思える。

○○「無事だったんですね?」

アマノ「ええ……苦労はしましたが。 けれどすべては今、君の顔を見て忘れてしまいました。 ○○……」

再び、彼の腕に強く抱きしめられる。

けれど数秒の後、彼は私を解放して背負った矢筒から一本の矢を手にした。

○○「アマノさん?」

アマノ「少し待っていてください。神に無事を報告するため、この矢を天に届けなければ」

彼は空に向かい弓を構え、矢を引き絞る。

美しく清廉とした魂がその姿に宿る。

(なんて綺麗なんだろう……)

ーーその瞬間、黒い矢は空を切り裂くように天へと放たれた。

○○「!!すごい……雲が、割れた!?」

空に消えた矢をアマノさんがまぶしそうに見上げる。

アマノ「これでよかったのでしょう……これで……」

そうつぶやかれた声は、清々しく私の耳に響いたのだった…ー。

……

その後…ー。

長旅の汚れを落とした後、アマノさんは私の部屋へと来てくれた。

隣に彼がいるだけで、これまでとは嘘のように窓の外の景色が綺麗に見える。

(ああ、私、こんなにアマノさんのことが…ー)

自分の想いを再確認してしまっていると…ー。

アマノ「○○……」

○○「え?」

名を呼ばれて彼の方を向いた瞬間、真正面から抱きしめられた。

○○「アマノ……さん……?」

夕焼けに照らされた金色の瞳が私を見つめ、熱く力強く輝いている。

アマノ「君が待っていてくれると思ったから僕は苦難を乗り越えられたんです。 恐ろしいことも、迷いも多くありました。けれどその度に思い出したのは君の柔らかな笑顔でした」

○○「私の……?」

アマノ「はい。君の笑顔はまるで野に咲く花のように控えめだけど、可憐で愛らしかった……。 あの藤棚の近くで僕が君の髪に花を飾った時から……僕は君に惹かれていたのかもしれません」

○○「アマノさん……私もです」

いつか花を飾られたその髪に、彼の手が通される。

アマノ「僕が、何よりも守りたいもの……」

指先が愛しさに満ちた動きで、私の髪を梳いていく……

アマノ「待っていてくださってありがとうございます……僕は何よりそれが嬉しかったんです。 〇〇」

○○「……っ」

そっと深く腰を抱き寄せられた瞬間、彼の唇が私の唇に重なった。

瞳を閉じると、彼の優しさに心が包まれていく。

アマノ「……僕の心から、迷いが完全に消えたといえば嘘になります。 けれど、君のためなら……どんな時でもこの弓を引くことを、もうためらわない……。 ○○。これからも僕の傍にいて、僕を導いてくれますか?」

○○「……はい。アマノさん」

静かに頷くと、私の存在を確かめるように、もう一度深い口づけが唇へと落とされる。

○○「んっ……」

窓際に置かれた弓が、夕陽の光を浴びて美しく輝く。

その神々しい光が、私達のことを優しく見守ってくれているような気がした…ー。

おわり。

<<太陽9話||月覚醒へ>>