突然の雨にも、フォーマは私に笑顔を向ける。
フォーマ「良かった、傘を持ってきて」
フォーマは持っていた傘を、私の方へと傾けてくれる。
○○「ビニール傘?」
フォーマ「ああ、僕のお気に入りの傘なんだ。光が入ってきて、雨も楽しめる」
(そう言われたら……そうかも)
私はビニール越しから雨を眺め、こんなに美しいものだったかと思わずため息が漏れた。
(あれっ……)
フォーマの左肩を見ると、雨でずぶ濡れになってしまっている。
○○「そんなに私の方に傘を向けたら、フォーマが濡れちゃうよ」
フォーマ「僕はいいよ」
そう言ったそばから――
フォーマ「く……っ」
フォーマが小さくくしゃみをした。
○○「フォーマ、大丈夫?」
フォーマ「ああ、大丈夫だよ」
(このままだとフォーマ、風邪を引いてしまう……)
少し離れた場所に、出店を見つけた。
○○「私、あそこの店で傘を買う」
私達は、店に向かって歩きはじめる。
その際も、フォーマは私をかばうように傘を傾けた。
○○「フォーマ、もっと傘の中に入って」
フォーマ「大丈夫だよ」
私は、無理矢理傘をフォーマの方に傾けようとした。
フォーマ「そんなに傾けたら、○○が濡れるだろう」
○○「私は大丈夫だから」
そのまま、フォーマと傘の譲り合いが続いてしまい――
フォーマ「ああ、じゃあ……」
フォーマが私の体をぐっと引き寄せた。
私は、フォーマの胸に顔をうずめるかたちになる。
○○「……!」
フォーマ「こうすれば、二人とも濡れない」
○○「う、うん……」
耳元でフォーマの鼓動が聞こえてくる。
その鼓動は、心なしか速い気がした。
フォーマ「店に着くまでだから……我慢して」
(我慢だなんて……)
ずっとこのままの状態が続いたらいいのに――私は密かにそんなことを思ってしまった。
……
私達は店に行ったが、既に全ての傘が売り切れてしまっていた。
(せっかく来たのに……残念)
○○「あれっ……」
店の外を見ると、雨脚が弱くなっていた。
フォーマ「小雨になってきたね。これなら、一本の傘で大丈夫そうだ」
店の外へ出て、私達は一本の傘で駅まで歩くことにした。
……
駅までの道のり――。
一本の傘の中に、フォーマと私が入って歩く。
さっきのことを思い出し、私は思わず頬が熱くなってしまった。
フォーマ「……○○、今日はすごく楽しかった」
○○「私も、すごく楽しかった」
すると…―。
コツンと、一つの傘の下で額が優しくぶつかり合う。
フォーマ「最後は雨に降られたけど、結果的にはよかったというか……僕的にはラッキーだった」
○○「えっ……?」
フォーマ「○○とこんな近くにいられるからさ……」
フォーマの優しい、穏やかな眼差しが私に向けられている。
○○「フォーマ……」
フォーマ「……」
私達はしばらく見つめ合った。
二人以外の時が止まったかのように、辺りは静寂に包まれている。
○○「……私も」
そうつぶやいた直後、フォーマは私の唇を塞ぐ。
傘が、雨粒を優しく弾く。
周りに咲く紫陽花が、その雨を受けて瑞々しく輝いていた…―。
おわり