少し明るさを取り戻した様子のアキトさんを、部屋の前で見送った。
アキト「本当に今夜は、怖い思いをさせてしまってすみません。 明日……貴方のお時間をいただけませんか? 最初の日にも、花畑にしか連れて行けませんでしたし、今日も……」
そこで言い淀むアキトさんに、私は笑顔を向けた。
〇〇「はい、ぜひ一緒に過ごしたいです」
アキト「〇〇さん……。 明日こそは、貴方に楽しい思いをしてもらいたいです」
〇〇「ありがとうございます。じゃあ、楽しみにしています」
アキトさんが、ふっと笑みをこぼす。
その笑顔にもう、憂いを感じることはなかった…-。
…
……
そして翌朝…-。
ちょうど朝食を食べ終わった頃に、アキトさんは部屋へ迎えに来てくれた。
アキト「貴方をお連れしたい場所があるんです。出かけましょう」
〇〇「はい」
アキトさんのエスコートを受けて、二人で部屋を出た。
アキトさんが連れて行ってくれたのは……
城の中庭に位置する、驚くほどに美しい曼珠沙華の園だった。
(なんて綺麗なんだろう……色とりどりの曼珠沙華が咲き乱れて……)
あまりの美しさに言葉を失っていると、アキトさんが嬉しそうに語り始めた。
アキト「ここは、私のプライベートガーデンなんです。 園芸品種の改良などをここでしたり、花から取れる毒の成分を薬にするための実験などをしていました」
〇〇「ここで……」
アキト「はい、皆に愛される未来を、夢見て……」
アキトさんの目が優しく細められる。
風にさらさらと髪がたなびき、瞳は太陽の光を反射してまばゆく輝いていた。
自然と……心の音が速くなっていくのを感じる。
アキト「私は、貴方が真っ赤な曼珠沙華の花畑を見て、綺麗だと言ってくれたのが本当に嬉しかった……」
アキトさんはそう言うと、一房の真っ白な曼珠沙華をその手に摘んだ。
そして……
私の前へ、捧げるようにして曼珠沙華を差し出したかと思うと、そっとそれを握らされた。
アキト「私はずっと……皆から、綺麗な花だと愛されたかった。 なぜ同じ花なのに、我々だけが忌み嫌われなければならないのだろうと苦しみ続けて……。 けれど……あの時の貴女のたった一言で、満足してしまったんです」
その顔は、これまでのどのアキトさんよりも穏やかで優しげなもの……
鼓動の速まりと、頬に集まる熱を感じる。
アキト「そして……貴方の言葉で、夜光の花をやめたいと思いました」
〇〇「え……私の、言葉……?」
アキト「はい、貴方は私に、曼珠沙華を綺麗だと言ってくれる人はきっといると言ってくださいました。 ただこの球根に毒を持つだけで、愛でられるべき花なのだと……。 我々だって他の花々と同じなのだと……であれば、毒を武器に変えることなど許されない。 それに、夜光の花をやめなければ、貴女に想いを伝えることもきっと許されない」
〇〇「え……? 想い……?」
アキト「はい……」
アキトさんが、そっと、手に持っていた花を持ち直す。
一度目を伏せ、それから……
【スチル】
アキト「私は、貴方が好きです」
〇〇「っ……!」
(アキトさんが私を……好き……?)
あまりに驚いて、口元に手を当てたまま言葉が出てこない。
アキト「……どうか私の気持ち、受け入れてくださいますか?」
アキトさんの頬はほんのりと上気し、浮かべられた微苦笑はどきどきするほど美しかった。
(もう……苦しそうなアキトさんに戻って欲しくない)
(私が少しでも支えになれれば……)
(それに私も……)
明るい太陽の光が、私の心も照らし出してくれるようだった。
〇〇「……はい、喜んで」
恥ずかしさに、小さな声で答えた途端、アキトさんの顔が満面の笑みになる。
(アキトさんの表情……本当はたくさんある)
そう思った矢先、ふわりとアキトさんの顔が近づいてきたかと思えば……
私達は、咲き乱れる曼珠沙華に囲まれながら、優しい初めてのキスを交わした。
アキト「貴方に出会えて本当によかったです」
曼珠沙華の花達が、嬉しそうに風に揺れる。
太陽の光を浴びて輝くその花達は、なんて美しいのだろうと……
私は心から、そう思った…-。
おわり。
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