大会の日…-。
オレは、剣の競技に向けて、街の中央にあるホールで出番を待つ。
(出番は5試合目か……)
大会のために、オレはこの数週間、ものすごく練習を積み重ねた。
弟も仲間も、オレの姿に感化されて、共に練習に励む日々…-。
(けど、ここまで頑張れたのは、アイツのおかげだ)
オレは〇〇の笑顔を思い浮かべる。
アインツ「ぐはぁ!」
〇〇の笑顔を想像するだけで、動機が激しくなる。
動機を抑えようと、オレは胸に手をあてた。
アインツ「……なんて破壊力だ」
彼女の笑顔を思い出すだけで、オレの胸がこんなに熱くなるとは…-。
(恋はここまで人を狂わせるのか!)
気合を入れ直すために、オレは両頬を叩いた。
アインツ「しっかりしろ、オレ! オレにはやらなきゃいけないことがあるだろ!」
そう、オレは決めている。
(この大会で、優勝したら、〇〇に告白する!)
オレは手をグッと握りしめた。
だが、その手はオレの意思と反して、小刻みに震えていた。
アインツ「なんだっていうんだ……。 まさか緊張しているのか? オレ!」
頑張ろうと思えば思うほど、鼓動が激しくなっていく。
アインツ「この調子じゃ、上手くいく気がしない……」
(このままでは、優勝もできない。そうなると、告白も……)
気を落ち着かせようと目を閉じた。
(無だ……今のオレに必要なのは……無!)
だがその時…-。
〇〇「アインツさん」
(〇〇!?)
思い浮かべていた彼女が現れる。
オレの心臓がさらに音を立てた。
(うるさいぞ、オレの心臓! しずまれ!)
(彼女はただ試合前に労いに来てくれただけだ!)
アインツ「よ、よう、〇〇!」
オレは慌てて立ち上がった。
(彼女にこの緊張を気づかせたらいけない!)
〇〇「もうすぐですね」
アインツ「そうだな、もうすぐだ!」
(そうだ、もうすぐだ。早く平常心を取り戻さなければ!)
(だがどうしたらいい!?)
(収まるどころか、彼女を見たら胸が苦しくなる!)
〇〇「練習の成果が発揮できるといいですね!」
アインツ「そうだな! 発揮できるといいな!」
(発揮できるはずだ、なんせオレだぞ!)
(隠していた力をフルに引き出せばかならず……!)
〇〇「……優勝目指して頑張ってくださいね」
アインツ「そうだな! 頑張ってくださる!」
(優勝! それがすべて! そして〇〇に……)
〇〇「緊張してますか?」
アインツ「そうだな! 緊張……いや、してるわけないだろ!」
途中まで言いかけて、オレは慌てて否定した。
(危ない! 緊張しているとばれるところだった!)
〇〇「……大丈夫ですか?」
〇〇がじっとオレを見上げている。
(オレは今……何を〇〇と話していた?)
思い返すが、全く覚えていない。
アインツ「えっと……」
〇〇「アインツさん……」
〇〇が、なおもオレをじっと見上げる。
(く……そんな潤んだ瞳で見つめるな)
(好きだと今ここで言いたくなるだろう!)
オレは必死に心を押さえつける。
アインツ「そっそんな顔するな! とにかく大丈夫だ! オレの活躍、期待していてくれよ!」
オレは〇〇に無理やり笑顔を作った。
アインツ「どうしたんだオレは! らしくないだろこんなの!」
胸の高鳴りが収まらない。
(だが、オレはやらなければならない!)
(あいつに告白するために!)
試合の出番が回ってくる。
オレは剣を握りしめると、会場へ向けて歩き出した…-。