第4話 優しい猟犬

その日私は、気分転換とシリウスとの次の遊びを考えるため、街へと出かけていた。

(いい天気だな)

広がる青空の下、街はとても活気に溢れていた。

商人A「いらっしゃい、お嬢さん! うちの採れたての林檎はいかがかね」

商人B「お嬢さん! 特上の肉の燻製があるよ!」

市場では店の人々に声をかけてもらい、楽しく見て回ることができる。

(何か、シリウスと楽しめるヒントがあればいいんだけど……)

そう思いながら、きょろきょろと街の中を探索していた時。

男A「おい、ガキ。俺らの言うことが聞けねえってのか」

少年「ぼ、僕……」

路地裏から、不穏な話し声が聞こえて、こっそりと覗き込むと……

男B「金目のもん、全部渡せっつってんだよ。震えてねえで、さっさとしやがれ」

男C「くくっ、こいつ、また殴られてえんじゃねえのか」

少年「ひっ……!」

(男の子が、襲われてる! どうすれば……)

(考えてる暇なんかない……すぐに助けないと!)

〇〇「やめて!!」

男A「あ?何だぁ?」

無我夢中で、路地裏へ飛び込むと、みんなの視線が一斉に私に集まった。

思わず足がすくみそうになる。

男B「威勢がいいのは、いいことだが可愛い嬢ちゃんが、一人でのこのこ現れるとは……」

〇〇「ち、近寄らないで……」

その時…-。

???「何してんだ、こんなとこで」

(シリウス!?)

シリウスは私に目配せをしながらにやりと笑った。

ぞくりとするほど妖艶で強く、恐ろしくも感じる瞳。

(シリウス……?)

大きく心臓が跳ねるのを感じた。

シリウス「悪いやつは、許せねえな。オレの一番嫌いなこと、お前ら知ってるか」

男C「な、何だよ、こいつ」

男A「お、おい、こいつ、まさか」

少年「シリウス様!」

少年が叫んだ瞬間、男達の顔色がパッと青ざめる。

男B「シ、シリウス王子!? こっ、こんな猟犬相手にしてられっか!」

一人の男が、一目散に逃げて行く。

シリウス「逃げんじゃねえよ! オレの一番嫌いなことは、弱い者いじめなんだからよぉっ!」

男A「ひいいいいい!!!」

男C「た、助けてくれーーーー!!!」

シリウスが飛びかかろうとした矢先、男達は必死の形相で逃げ出してしまった。

〇〇「どういう、こと……」

シリウス「チッ。逃げやがったか」

少年「シリウス様! ありがとうございます!」

少年が、シリウスに飛びつくようにして抱きつく。

シリウス「何もされなかったか?災難だったな」

少年「シリウス様のおかげで、助かりました!」

シリウス「オレと、こいつのおかげだぞ」

〇〇「え……?」

くい、と親指で指さされ、驚く。

シリウス「こいつがまず、お前のことを助けようとしてたんだからな。ほら、ちゃんと礼を言えよ」

少年「はい! お姉さん、どうもありがとうございます!」

〇〇「う、ううん。私は何も……」

見れば、シリウスはとっても満足そうな顔をして微笑んでいる。

(私、彼のこんな顔、初めて見た……)

優しくて、とっても温かそうな、シリウスの笑顔。

それは、じんわりと私の胸を温めてくれるような笑顔だった。

シリウス「よし、もう今度は悪い奴らにからまれないように気をつけろよ」

少年「はい。さようなら」

少年は、大きくぶんぶんと手を振って去って行く。

シリウスはそれをしっかりと見送ると、私に向き直った。

シリウス「アンタ、勇敢すぎ」

〇〇「え?」

シリウス「自分で解決しようとしてただろ。女だてらに、無理だっつうの」

〇〇「あれは、とっさに……」

シリウス「無理だな。 男三人に、女一人じゃ絶対に無理だ」

〇〇「でも……」

シリウス「あんま、無茶すんな。 じゃねえと、万が一、アンタに何かあったらどうすんだよ」

〇〇「シリウス……」

シリウス「父上にどやされるし、それに。 アンタの匂い……気に入ってんだからさ……」

(っ……!)

スッとまた、シリウスの鼻先が、私の首筋に近づく。

初めての時よりもいっそう、大きく鼓動が脈打った。

シリウス「何かあったら、困る……」

どこか、切なくも聞こえる声音に、胸がきゅっとしめつけられる。

あとほんの数センチの距離に彼はいるのに、触れられなくて……。

シリウス「〇〇……」

でも、その距離をなくしたのは、シリウスの方だった。

名前を呼んだのと同時に、彼は優しく私の頬に触れた。

シリウス「オレが守ってやるからさ。 アンタ、か弱い女だからな」

真剣ながらも、暖かなまなざしが私に向けられている。

にっこりと微笑んで、シリウスの手が頬から離れていく。

(本当は私……、もっと彼に、近づきたい……?)

もどかしい気持ちが湧き起こる。

けれど、彼の笑顔が今までで一番素敵なものに見えたから……

(今はこれで十分……だよね……?)

そう、思えたのだった…-。

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