その後…-。
私達は大通りを抜け、川沿いのレストランへと入った。
〇〇「わぁ……!」
テーブルに置かれた料理を前に、私は思わず感嘆の声を漏らす。
彩りの良い野菜をふんだんに使った料理は、まるでパレットのようで……
ウィル「この国は名前の通り色には厳しいから、すべてに対して色彩を大切にしてるんだ。 もちろん、料理にもね」
ウィルさんが野菜をフォークの上にのせ、私にウインクする。
〇〇「食べるのがもったいないくらいです」
ウィル「おっと、せっかく頼んだから食べてくれないと寂しいなぁ」
〇〇「も、もちろんです」
見とれていたことに気づいて、少し慌てながらフォークを手に取る。
くすりと声を押し殺した笑い声が、テーブルの向こうから聞こえた。
(笑われた……)
ウィル「ホラーレストランのメニューに取り入れたらいいと思わない? ただし、僕がやるなら血のように真っ赤な料理とか、本物の目玉のようなゼリーとかかな?」
ウィルさんの言う料理を想像してしまい、私はナプキンで口を押さえた。
ウィル「どうやら悪くないメニューみたいだ!」
〇〇「え?」
ウィル「〇〇の青ざめた顔、レストランで出した時の客の反応が手に取るようにわかるよ」
ウィルさんはメモ帳のようなものを取り出すと、思いついた案を書き始める。
(ウィルさん、すごいな……)
ついその様子を見つめてしまっていると……
ウィル「おっと、食事中まで仕事をするのはマナー違反だったね」
メモ帳をしまいながら、ウィルさんが目をすがめる。
〇〇「いいえ、大事なお仕事なので」
(それより……私がいるとウィルさんの仕事の邪魔になってるんじゃ)
さっきからそれが気になっていたけれど、ウィルさんには聞けずにいた。
ウィル「何か考えごと?」
〇〇「え……?」
ウィル「さっきから君、時々そういう顔をしている。 君の怖がっている表情は好きだけど、元気がないのは嫌だな。 悲鳴は元気がいい方がいいだろう?」
冗談交じりの言葉に、私は思わず笑ってしまう。
ウィル「うん。その顔だ」
その時…-。
入り口から数人の男の人達がこちらへ駆けて来るのが見えた。
スタッフ「お食事中すみません」
男の人達の表情を見て、ウィルさんの顔が真剣なものに変わる。
ウィル「いいよ、どうしたんだい?」
スタッフ「さっきの血糊、衣装につくとどうも地味で…-」
ウィル「地味か……なら…-」
ウィルさんがいろいろと指示を出すと、スタッフの人達は礼をして慌てて店から出て行った。
ウィル「ごめんね! 落ち着かなくて」
〇〇「いろいろなことを知ることができてためになります」
ウィル「君は本当に、いい子だねえ」
〇〇「それより……私がいると仕事の邪魔じゃないですか?」
思い切ってウィルさんに尋ねると、彼は驚いたようにまばたきを繰り返した。
ウィル「邪魔? 君の意見が聞きたいと思って呼んだのに? それに、僕がそろそろ君に会いたかったんだよ」
伏し目がちにつぶやかれた言葉に、胸が温かくなった…-。
…
……
食事も終わり、宿泊先まで私を送り届けると、ウィルさんは私に向き直り、両手を包んだ。
ウィル「明日も付き合ってくれると嬉しいな」
〇〇「明日……」
ウィル「君の素直な反応が欲しいんだよ」
ウィルさんが私の顔を覗き込み、優しい声で囁く。
〇〇「わかりました……!」
ウィル「それじゃあ、明日」
去っていくウィルさんに手を振り、私はいつまでもその後ろ姿を見つめていた…-。