第3話 監督としての顔

赤い液体が、床の上でぬらぬらと血のように輝く…-。

ウィル「ね? 本物より本物みたいな、血糊でしょう」

〇〇「はい……」

ウィルさんは赤い液体に触れると、指先に塗り広げた。

ウィル「僕は本物の血は苦手だけど、映画の撮影ではリアリティを追求したいんだよね。 だからって、ただ本物のように作るだけじゃだめなんだ。 カメラで撮った時に映える血糊じゃないと」

赤い液体がウィルさんの指をゆっくり伝っていく。

(まるでウィルさんが怪我しているみたい……)

ウィル「この血糊……僕も一瞬、眩暈がしたから、悪くない出来だね」

赤く染まった床を見下ろすと、胸が騒ぐ。

〇〇「この液体は染料なんですよね? 本当に血が混ざってたりは……」

ウィル「それは……」

不意にウィルさんの表情から笑みが消えた。

(まさか……!)

ウィル「アハハ! だったらこんなにのん気に触れないよ!」

まだ気持ちが落ち着かず、胸に手をあてていると、ウィルさんが、私の顔を覗き込んで優しい眼差しを向けた。

ウィル「君の怯える顔を見ると、胸が高鳴って……しょうがないよ」

つぶやくような声はまるで本心を語っているようで、胸の奥が甘く疼いた。

ウィル「君の反応も見られたし……後は……」

私の戸惑いには気づかないまま、ウィルさんはハンカチで手についた血糊をぬぐう。

そうして顔を上げると、すぐに真剣な表情に変わり、職人さんへと歩み寄った。

ウィル「いい血の色だ。気に入ったよ」

職人「ありがとうございます!」

ウィル「試しに、レンズを通してどう映るかテストをしてみたいんだけど。 そうだな、その染料に…-」

ウィルさんの指示に、職人さんが頷きながらメモを取る。

(すごく真剣な顔)

邪魔してはいけないと、私はただ傍で静かにしていることしかできず、自分だけこの場にそぐわない気がした。

(そういえば……私に聞きたいことってなんなんだろう?)

(本当にこの染料で驚かせるため?)

不思議に思いながら、足元の赤い染みを見下ろした…-。

……

工房を後にして、ウィルさんと昼下がりの街を歩く。

ウィル「ね、本物より本物らしかったでしょう?」

〇〇「はい!」

ウィルさんは満足そうに微笑むと、視線を前へと向けた。

まっすぐに前を見つめる表情は、精悍で頼もしい。

街の人1「ウィル監督!」

通りすがりに声をかけられ、ウィルさんが手を上げて応えた。

職人1「監督! 新しい塗料ができたんです!」

職人2「次の演出には、是非うちの塗料を使ってください!」

皆、ウィルさんを呼び止めては新しい色を見せたり話したり……

(ウィルさん、街の皆から信頼されてるんだ)

ウィル「これはいい色だね。そうだ、暗闇で光らせたりできる?」

職人3「もちろんです! あの鉱物を混ぜて……よし、さっそく取りかかります!」

職人さんが、時間を惜しむように通りの向こうへと走っていく。

ウィル「元気がいいねぇ。そうだ、ゾンビがあれくらい早く追いかけて来たら怖いと思わない?」

〇〇「怖いです……」

ウィル「今度、試してみようかな。もちろん君で♪」

〇〇「え……!」

ウィルさんは私を見つめて楽しそうに笑っている。

(本当に……やらないよね?)

(こうやって気さくに笑ってくれると、やっぱり嬉しいな)

ウィルさんの横で、怖いような嬉しいような複雑な気持ちを感じていると…-。

街の人2「監督、その人は……?」

〇〇「え?」

街の人達の視線がウィルさんから私へと移る。

〇〇「私は……」

ウィル「サイッコーの表情を見せてくれる、僕の大切な人♪」

街の人2「監督の大切な人!?」

ウィルさんに肩を抱かれ、思わず頬が熱くなる。

けれどそれと同じくらい、なぜだか皆の視線に後ろめたさを感じた…-。

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