目にも鮮やかな街を風が穏やかに吹き抜ける…-。
(まるで虹の中を歩いているみたい)
ウィルさんと並んで歩きながら、私は街を見渡した。
〇〇「ウィルさん、さっき小道具と衣装って言ってましたけど」
ウィル「ん?」
〇〇「ここでどんなものを用意するんですか?」
私の質問に、ウィルさんが楽しそうに瞳を輝かせた。
ウィル「映画を撮影するには、本物より本物らしいセットや小道具が必要になるんだ。 そういう時に、この国が生み出す『色』が役に立つんだよ」
ウィルさんが色とりどりの布へと視線を向ける。
イメージを膨らませているのか、その瞳はここではないどこかを見ているようで……
(ウィルさんの瞳にはどう映っているんだろう?)
その瞳に映る何かを見てみたくなる。
(でも、本物よりも本物らしいもののために色が役に立つって……どういうことだろう?)
謎が増えた気がして、私は首を傾げた。
ウィル「……考えてること、当ててあげようか?」
〇〇「っ……!」
ウィルさんから顔を覗き込まれて、思わず胸が音を立てた。
それを知ってか知らずか、ウィルさんは面白そうに笑みを浮かべる。
ウィル「これから見られるから、楽しみにしていてよ」
そう言うと、ウィルさんが私の手を取り、指を絡めた。
触れ合う指から温かさを感じて、どうしていいかわからなくなる。
ウィル「本物より本物らしい色を一つ見せてあげるよ」
手を引かれて、私はその先に待つものを待ち遠しく感じた。
…
……
ウィルさんに連れられて、私はひときわ色に溢れた工房へとやって来た。
職人らしき人達が、液体の入ったバケツを運んでいく。
ウィル「ここは王立の研究工房なんだ。毎回、ここにお世話になっていてね」
〇〇「王立の……」
運ばれていくバケツに興味が湧いて、職人さんを目で追いかける。
職人「ウィル監督、頼まれていたものが仕上がりました! 色の確認をお願いします!」
職人さんの言葉に、ウィルさんが何か思いついたのか、瞳を輝かせた。
ウィル「ここで確認するから、試しにこの辺りにぶちまけてよ!」
職人「ここにですか? わ、わかりました!」
(なんだろう?)
不思議に思っている間に、職人さんは液体の入ったバケツを運んで来た。
バケツの中は黒いような……けれど揺れると何か別の色のような濃い色の液体が入っているのが見える。
ウィル「せーの!」
ウィルさんのかけ声で、職人さんがひっくり返した。
足元がみるみるうちに真っ赤に染まっていく。
〇〇「うわっ……!」
鮮やかで少しテカテカした赤い液体はまるで血のようで、偽物だとわかっていても思わず体がすくんでしまう。
ウィル「これは、すごい! まるで殺人現場のようだ!」
ウィルさんが私の隣で嬉々とした声を上げた。
ウィル「〇〇、どう思う? 君の素直な感想を聞かせて」
声を弾ませるウィルさんに、私は…-。
〇〇「本当の血みたいで、驚きました……」
ウィル「最高の褒め言葉だね! やっぱり君を誘ってよかった」
〇〇「もしかして……このために?」
質問の答えのように、ウィルさんが満足そうに笑う。
(やっぱりウィルさんは、ウィルさんだ……)
私は、楽しそうなウィルさんの笑顔をただ呆然と見つめた…-。