色彩の国・ファルベール 影の月…-。
足を踏み入れた瞬間、色鮮やかな街並みに目を奪われた。
〇〇「なんて綺麗な街なんだろう」
赤や緑、黄色や桃色……色とりどりに塗られた家々が立ち並び、染めたばかりなのか、色彩豊かな布がベランダや軒下でたなびく。
(ここにウィルさんいるんだ)
空を仰ぎながら、この国に私を誘ってくれたウィルさんを思い浮かべた。
―――――
ウィル『映画制作でファルベールに行くんだ。よかったら君も来ない?』
―――――
(ウィルさんはそう言っていたけれど……)
映画の国・ケナルの王子にして、ホラー映画の監督として世界に名を馳せているウィルさん……
(今回も、もちろんホラー映画の制作だよね)
(でも、この綺麗な風景……なんだかうまく結びつかないな。どんな映画なんだろう)
あれこれ想像を膨らませていると…―。
ウィル「綺麗なものを見て微笑み君もいいけれど、僕はやっぱり怯えた表情の方が好みかな」
ウィルさんが指で視界を切り取りながら、私の方へやって来た。
〇〇「ウィルさん!」
ウィル「やあ、よく来たね。待っていたよ」
眼鏡の向こうの瞳を細めて、ウィルさんが微笑む。
〇〇「はい。ウィルさんの映画制作が気になって。あの、ここで撮影を?」
ウィル「いいや、この国には映画の小道具や衣装の制作で世話になっていてね。その関係で来たんだ」
〇〇「小道具と衣装?」
ウィル「そう。そこで君が必要なんだ」
〇〇「私……ですか?」
ウィルさんの笑顔に、私は思わず身構えてしまう。
恐怖に怯える人の顔が好きなウィルさん……
(もしかして、また私を怖がらせようとしてる……?)
ウィルさんの表情から読み取ろうとしても、飄々とした笑顔からはその真意がうかがえない。
ウィル「君の怯えた顔はやっぱりいいねぇ」
(やっぱり……!?)
ウィル「けど、今回は君のアイディアが必要なんだ。他でもない君の、ね?」
ニヤリと微笑んだかと思うと、ウィルさんは真剣な表情を浮かべる。
いつもと違う眼差しに、私は思わず……
〇〇「私でよければ……」
警戒していたのも忘れて、そう答えていた。
ウィル「ありがとう、〇〇!」
私の手を握りしめると、ウィルさんが嬉しそうに微笑む。
(こんなに喜んでくれるのなら……)
色鮮やかな景色の中、胸が高鳴っていくのを感じていた…-。