第3話 セラスの話し方

街に午後の鐘が鳴り響く…-。

街の人達が復興作業の手を止め、木々の下で休み始めた。

セラス「この話し方は……ある奴の影響やねん」

大通りを歩きながら、セラスさんは重々しい声でつぶやいた。

〇〇「ある奴って?」

セラスさんはニヤリと微笑むと、私の耳元に顔を近づける。

温かな吐息が耳にかかり、そのくすぐったさに胸が音を立てた。

セラス「ミネルヴァやねん……」

〇〇「ミネルヴァ?」

セラスさんは私の目をまっすぐに見つめ、神妙な顔で頷く。

セラス「仲良う過ごしてきたから、アイツの話し方がうつってもうてな。 せやから……会えない間は、ほんまにつろうてつろうて……」

目頭を押さえると、セラスさんは大仰に空を見上げる。

(そっか、仲良しだからやっぱり……)

二人の仲の良さをしみじみと感じていると…-。

〇〇「あれ? ミネルヴァって、訛ってはいなかったような……」

ミネルヴァと話していた時のことを思い出して、私は思わず首を傾げる。

(記憶違いかな?)

深く思い出そうと、記憶をたどっていると……

セラス「あかん、覚えとったか……」

セラスさんのあっけらかんとした声が聞こえた。

〇〇「もしかして……嘘?」

思わずセラスさんを見つめるものの、彼は気にも留めずに口元に笑みを浮かべた。

セラス「ええ理由やと思ったんやけどな~。 ていうか、ミネルヴァとしゃべったんか。 へぇ……アイツがしゃべるなんてな」

セラスさんははぐらかすように、街の奥に広がる森の方を見つめる。

〇〇「はぐらかさないで、ちゃんと話してください」

セラス「そんな怖い顔して。かわいい顔が台無しやで」

〇〇「……っ!」

セラス「顔、真っ赤なってんで?」

改めて私の方へと向き直ると、セラスさんは眼鏡のふちを指で弄ぶ。

セラス「……ほんまはな。 ミネルヴァのことをずっと世話してくれたおっさんがいてな。そのおっさんの影響やねん。 これはほんまのほんま」

私の考えを先回りするように、セラスさんは口の端を上げる。

セラス「おっさんは、長いこと世界中を旅しながら獣医しとったらしくて、 その確かな目を買われて、この国でミネルヴァの守り人の仕事を頼まれたってわけや」

〇〇「そんな方が……」

瓦礫に腰を下ろし、セラスさんはまた森の方を見つめる。

(ミネルヴァの神殿がある方だ……)

彼にならうように隣に座り、私も森へと視線を向けた。

セラス「おもろいおっさんでな。世界中旅しとったから、なんや考え方も変わってて……。 オレは夢中になって、よう話を聞きに行っとった。で、いつの間にか話し方もうつってもうて。 そう考えると、今のオレの話し方とか考え方とか、いろんなもんがおっさんで構成されてんな。 うわっ……キモッ!」

セラスさんは両腕をさすりながら、笑い始める。

〇〇「セラスさんにとって、先生みたいな方なんですね」

セラス「!」

私がそう言うと、セラスさんの笑い声が突然やんだ。

(あ……もしかして、変なこと言った?)

不安になってセラスさん顔を見ると…-。

彼は私を見つめ、柔らかな笑みを浮かべていた。

〇〇「っ……!」

胸が高鳴り、頬が熱くなっていく。

セラス「先生か……うん。 アンタのそういう考え方、好きやな」

〇〇「セラスさん……」

彼の笑顔から目が離せなくなりそうで、私は慌てて顔を逸らした。

〇〇「私も会ってみたいです」

セラス「……それは無理や」

〇〇「え……?」

セラス「ユメクイに眠らされてな。目が覚めへんまま……」

その時のことを思い出したのか、セラスさんの瞳が痛みを含んだように揺れていた。

〇〇「すみません……」

セラス「〇〇が謝ることあらへんよ。 それに、今さら気にしたかて過去は変わらへんやろ?」

〇〇「セラスさん……」

セラス「オレとミネルヴァがちゃんと覚えとることが、おっさんの生きた証やて」

セラスさんが私の頭を優しい手つきで撫でる。

その手の温もりに、胸が苦しく締めつけられていった…-。

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