会場の光景を見て、私は思わず息を呑んだ。
(すごい……!)
辺りの壁は金屏風に囲まれたかのように美しい金色をしていて、そこに描かれた猛々しい虎と龍は、今にも動き出しそうなほど迫力があった。
〇〇「前の会場とは、随分と雰囲気が違います……!」
私が声を弾ませると、カノエさんも嬉しそうに目を細める。
カノエ「四季の国や自分達の文化を重んじようとしていることは、素晴らしいしありがたい。 俺達もこよみの国の王子として、クライヴァーという文化を理解し尊重できればと思っている」
〇〇「カノエさん……」
まっすぐに言う彼に、私は…―。
〇〇「カノエさんらしいですね」
カノエ「……堅苦しいか?」
〇〇「いえ……」
彼はわずかに目尻を下げるけれど、すぐに凛々しい顔に戻った。
カノエ「さて。それじゃあ、さっそく練習をするか」
その言葉と同時に、後ろから楽しげな声が聞こえてくる。
そこにはカノエさんが率いる舞のチームに所属する男性達がいて、辺りは途端に賑やかになった。
カノエ「お前ら、少しは黙っていられないのか。今からもう一度ルールを説明するから、きちんと覚えろよ」
チームメイト達「はい!」
カノエさんの一喝で、ぴたりと騒ぎが収まる。
(……変わってないな)
その様子を微笑ましく見ていると、カノエさんが少し不安そうに私の顔を覗き込んだ。
カノエ「うるさくてすまない」
〇〇「いえ、私は楽しいです」
カノエ「ありがとう。お前なら、そう言ってくれると思った。 だが、こいつらを甘やかす必要はないからな?」
チームメイト達「えぇ~!」
冗談めかすカノエさんに、チームメイト達は不満そうに声を上げたけれど、やがてカノエさんは場を仕切り直すように大きく手を叩き、クライヴァーの説明を始めた。
カノエ「早速だがゲームの説明をする。クライヴァーはチェスに似ている、一チーム16人で行う競技だ。 マスを移動し、相手の王を取ったら勝利。そうだったな、○○」
〇〇「はい。皆さんには、ゲームの前にそれぞれの役職の駒が与えられます」
カノエ「役職は、王、女王、そして騎士、僧侶、戦車、兵士と分かれている。 同じマスに入ると戦闘となり、相手の武器を破壊すると勝利だ」
その時、真剣に話を聞いていたチームメイトの一人が、さっと手を上げる。
チームメイト1「痛みも、怪我もすることがないと聞いてますが……本当ですか?」
カノエ「ああ。ここはダンテの魔法科学技術で作られた仮想空間だからな。 そして、ここなら『異能力』も使える」
チームメイト2「異能力って、瞬間移動とかの特別な力のことですよね?」
カノエ「そうだな。他にも戦闘能力強化や体力回復などもあるが、どの力を授かるかは運次第だ。 わかったか?」
チームメイト2「はい、大丈夫です!……多分」
こよみの国にはクライヴァーが普及しておらず、自国ではボードゲームや屋外での練習が主だったらしい。
初めて仮想空間で練習をする彼らは少し戸惑っているようだった。
カノエ「まあ、後は練習をしながら説明していく。それで覚えていけばいい。 俺達みたいなのは……習うより慣れろ、だ」
カノエさんの言葉にチームメイトの皆が苦笑いする。
けれどそれぞれ気合が入ったようで、役割や武器の確認をし始める。
カノエ「単純な奴らだ」
どこか誇らしげに笑った後、カノエさんが今度は私を見て口を開いた。
カノエ「俺は騎士をやろうと思っている。○○はどうする?」
〇〇「私は……」
仮想空間では筋力なども平等になるため、女性でも前線で戦うことができる。
しばらく考えた後、私はカノエさんを見つめ返した。
〇〇「あの……私も、騎士をやろうかなと思います」
カノエ「騎士……!?」
カノエさんは驚いたように目を見開く。
(おかしかったかな?)
(カノエさんの隣に立って戦えたら、と思ったんだけど……)
カノエさんの反応に戸惑いながら、私は視線を彷徨わせた…―。